俺はモッチーの部屋を出て伊作さんと食満の部屋まで走る途中、ふと感じた違和感に頭を回転させていた。

…なんか、今日の強制人間タイムは本当に長い。俺の推測では、切羽詰まってる時に変身して、俺の頭が安全領域に入ったと判断したら解ける、と思ってたんだが…何でまだ解けないんだ?いや、伊作さんの部屋まで行けるから便利といえば便利なんだが、推測間違ってたかな?
てか、今まで食器の神様がピンチの俺を変身させてくれてるんだって無意識に納得していたけど…それにしては、変、だよな?だって、俺の服装いつもの変身みたいに全裸じゃなくて前世の私服だし。

「よし、たまには深く考えよう」

わからないからっていつも中途半端に思考放棄するから問題が解決しないのだ。どうせまだ湯飲みに戻らないなら全速力で走る必要も無し。
とは言っても、これ以上どう考えたらいいものやら。んー…よし、ここは逆転の発想だ。実は今現在も俺はピンチである。よって、変身が解けない。


……自分で考えたけど、意味わからん。もう、やめようぜ…?馬鹿がいくら頑張って考えたって無駄なんだ。大人しくさっさと伊作さんの元に帰ろう。

決めたや否や、俺は自分でも驚く程のスピードで忍たま六年長屋に到着し、速やかに天井裏に忍び込んだ。あら、今の俺かつてなく忍者っぽい。普段の俺ってほら、湯飲みしてるか常にどたばた走ってるからさー。
伊作さんと食満の部屋の天井裏まで到着した俺は、忍者らしく天井の一角を音を立てずに外して下の様子を伺った。
…よし、寝てるな。相変わらず伊作さんの寝顔超かわいい。これはたぎる。

そんなことを考えながら机の上に降りるから、かたんとか小さいながら音を立ててしまうのである。馬鹿か。俺は馬鹿か。
いや違う、所詮俺はプロ忍者(笑)なのである。忍者らしいことしようと思ったのがそもそもの間違いであって、俺は馬鹿だが伊作さんがかわいいのは仕方ない。それに、伊作さん起きちゃったみたいだけど、丁度良く湯飲みに戻ってたから…気づいてないよね?ね?!

「…恒希さん?」

おい馬鹿気づいてんじゃねぇか。あー…もうっ!とうとうバレちまった…!
いや待てきっとまだ誤魔化せるやだ伊作さんったら湯飲みが人間で人間が湯飲みなわけなななななないじゃないですか何言ってんですか、よし今の全部夢です、寝ましょう、寝て忘れましょう、ほら寝ましょうすぐ寝ましょう。

「恒希さんが、届けてくれたのかな…?…良かった、戻ってきて」

そう言って小さく笑うと、伊作さんはまた目を閉じた。
あ、なんだそっちですか。あー、ちくしょー!無駄に焦ったー…!ビビったー!!
てか、伊作さん湯飲みがしばらくなかったの気づいてたんだ。本当に、ただの湯飲みなのに。

そう、俺に湯飲みとして愛を与えてくれるのは、この世で伊作さんだけなんだよなぁ。


それが、しあわせなのです。

愛とは世界で一番素晴らしく、尊くて、世界で一番――なのです。





…あ?あぁあああ。んん?俺、え?何で、愛され、

え?

え?

愛して、愛されて、矛盾。違う。無意味。だって、どうやったって、俺は、俺は、俺は――?




俺は、そう湯飲みだから。人間様を愛したって愛されたって意味ないよなぁ。
何だろう、にしても凄ぇ頭痛いな。これはまさしくあれだ…頭痛が痛い。

真剣な顔でボケてすみませんでした。てへぺろ。
いやぁ、頭は痛いけど実に晴れやかな気分なんだな、うん。なんか悩み吹き飛んだみたいな?
あー、ヤク中ってこんな気分なのかな?

(つまりそれは、現実から目を逸らしたしあわせ)


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