多少落ち着いたらしいモッチーに、そろそろ俺の魔法(強制で人間に変身)も解けるかなぁ、とぼんやりと思っていると、寝間着のモッチーに、すみません、とりあえず座ってくださいと促された。
まぁ、何にせよモッチーには俺(湯飲み)を返してもらう交渉をしなければならないため、お言葉に甘えて座らせてもらう。
「謝らなきゃ、ですよね。善法寺さんにしてみれば私、ちょっと理不尽に態度悪かったですから」
「うん、伊作君は優しいから絶対許してくれるよ」
「…」
「え、何?」
伊作さんは素晴らしい人だからなぁ、と敬意を込めて言えば、モッチーに無言で非難するように見られた。
「言っておきますけど、善法寺さんだって私への態度、中々のものでしたよ…?」
「…ご、ごめん?」
「…」
一方的な判断はよくないよな、と反省しつつ、伊作さんの分まで一応謝る。モッチーの目がさらに鋭くなった。
えええ?!俺女の子に非難され慣れてないんだから、もうどうしたらいいかわからん…!
「私、やっぱり謝りません。だって善法寺さん、本当に狡いですから」
「…まぁ、モッチーが元気になったなら、それで良かったよ」
俺としてはもちろん二人に仲良くなってもらいたいが、好き嫌いを強要はできないよね。
「…無自覚たらし」
何かモッチーが呟いた気がしたが、俺の第六感があまり追及しない方がいいと告げていたので、ごほんと一度咳をして話題を変える。
「あのさ、此処にあった湯飲みなんだけど、持ち主がいるから返しといていいか?」
「え、でもそれは竹谷君にもらって…」
「色々と事情があってさ。無理なら、まだいいけど…」
モッチーがもう少し落ち着いた後でも、構わない。俺がそこにいるだけで安心できるって言うんなら、俺が伊作さんに会いたい気持ちなんてちょっとぐらい我慢するさ。
俺が視線でモッチーに問うと、モッチーは一度顔を伏せ、それから顔を上げた。
「いえ、お願いします」
そう言ったモッチーは何故か苦笑していて、俺は不思議に思いつつもよかったと安堵して笑った。
「…ねぇ、もしかして本当の持ち主って善法寺さんですか?」
「よくわかったな」
「何となく、そんな気がしたんです」
その笑顔は、確かに天女様と呼ばれる程のもので――
「私、この世界に来ちゃったけど、幸せです!だって恒希さんに会えたから!」
「…ありがとう」
あああ、そうかだから俺はモッチーを助けたいなんて思ったのか。
俺ってなんて理不尽で自己中の自分勝手で性格悪いんだろう。せっかく湯飲みになったのに、ちょっと人間の姿借りたらすぐこれ。
…あーもう、傲慢過ぎて笑えない。