ところで諸君、覚えているだろうか?何か俺を見てる怪しげなくのたまがいるんだよなぁとか、心中で俺がぼやいていたのを。
数秒前、モッチーのその後の様子でも見ようかと人間になって外に出たらそいつが目に入り…正直そこで俺は、そういえばと思い出しましたね、はい。

そして現在、もう細かいこと考えんのしゃらくせぇ!と、そのくのたまとおいかけっこ中です。話聞こうと近づいたら逃げるんだもん。俺悪くない。暴漢違うよ。

「おい待てって…!」

まぁ、第六感様々で追い掛けたはいいものの…撒かれましたよね。地の理って卑怯だと思う。俺の行動範囲の狭さを嘗めないでくれ。
…何の解決にもならなかったどころか、あのくのたまの声すら聞けなかった。完全敗北である。…もう帰ろっかな。15秒もタイムロスしちゃったし。いや、15秒で撒かれた俺って逆にどうなんだろう。

「此処は何処だ…!」

俺が無言で落ち込んでいると大声が聞こえた。振り返ると、叫びながらも何故か進むことはやめない三年生がいた。
迷子だろうか?生憎俺はくのたまに撒かれたように学園の地理はまったくわかっていないからな…教室名とか建物名言われても多分辿り着けないだろうし、ここは安定のスルーかな。べ、別に三年生だからって経験上怖がってるとか、そんなんじゃねぇし…!

「おかしいな…真っ直ぐ三年の長屋に向かっているはずなのに」
「いや、三年の長屋は逆だろう」

くっ…思わず口を出してしまった。だって言ってる傍から逆方向に走ろうとするから…。三年長屋ぐらいなら此処から近いし、俺にも案内できるよ?
勢いよく振り返った少年は、何かを思い出すように眉間に皺を寄せた後、思い切り睨みつけてきた。

「お前…!藤内が言ってた奴だろッ!」

子犬が威嚇するように睨み付けられた俺は、はてと首を傾げた。
藤内…?わからん。そんな名字の奴は聞いたことない。

「えっと、モッチー関連の話か…?」
「やっぱり!僕はお前、嫌いだッ!」

…お、おお、スパッと言われた。
腰に手をあて、睨みで心底お前が嫌いだと訴えてくる少年に、俺は眉を下げた。
別に食満やら立花にそう言われても、俺の方がお前等嫌いな自信あるからうぜぇんだよばーか、とでも返すんだが…三年生だもんなぁ。まだ下級生。

「何で?」
「え」
「理由は?」

お兄さん、小さい子どもに嫌われるといい気しないんだよね。
怖がらせないようにと笑顔で聞けば、少年は顔を真っ赤にしてわたわたと慌て出した。

「し、潮江先輩に怪我させた…!」
「潮江?…ああ、俺の大事な人が彼に殺されそうだったからな」
「そ、それに天女様が…っ!」
「モッチーが?」

問い返すと、少年は泣きそうな顔で声を詰まらせた。え、何。何で。な、泣くなよ…?てかやっぱり俺のせいなの?なんか俺が悪いの?

「っ…わかってますよ、本当は!貴方が悪くないことぐらい!天女様が誰を好きでも、僕は責める権利なんてない!!」

あ。

…そう、だよな。モッチーを本当に好きか好きじゃないかは、本人が決めることだ。
そういう奴等の中には、モッチーが俺を好きだなんて噂聞いたら、傷つく奴がいること…簡単に予想できたはずなのに。

「…ごめんなさい、言い過ぎま、」
「本人に、好きだって告えよ」
「え…?」
「フラれたって諦めんな。理由聞け。心から、真剣に向き合え。それでもう一回、堂々として俺に会え。その時には本当のこと教えてやる」
「本当のこと…?」

不思議そうに言った少年に、俺はただ少しだけ笑顔を浮かべて頷いた。
そうまでした奴に、モッチーが俺を好きだってのはポーズだって教えてやんねぇ程、俺は酷い奴じゃねぇよ。


「左門ー!三之助ー!」

ふと、誰かの名前を呼ぶ大声が聞こえた。それに反応したように、少年がはっとして口を大きく開ける。

「あ、作兵衛。作兵衛ー!」

な、何だと?!その名前…っ!ま、まさかあの電波、此方に来るのか?!

「じゃあな、少年」

友達が来たからもう心配は要らねぇだろという体を装って、その実電波が来る前に此処を離れるべく、俺は片手を上げ颯爽と歩き出した。

「待っ…!ぼ、僕!神崎左門です…ッ!次は!次会ったら、堂々としてみせますから…!!」
「ああ、楽しみにしてるよ神崎」

うん、三年にしてはまともに好感の持てる奴だったな。

…さてと、神崎が見えなくなったところで時間がヤバい。走ろう。




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