素晴らしい朝ですね。何が素晴らしいって、伊作さんが半分寝ながら同じく半分寝ている食満に髪を結わせていて、いやもう何これかわいすぎる。俺を憤死させる気か。
食満がまだ嫌いじゃなかった頃は、この朝に弱い二人のやり取りがメチャクチャ好きだったんだよなぁ。まぁ別に、今も好きだけどな?

…はっ!いや待て、おい!伊作さん、そういえば前に好きな人がいて、しかも男…。
伊作さんの髪を半目で結う食満…それに無防備に体を預ける伊作さん…。

目を覚ますんだ伊作さんんんんっ!駄目!本当、食満は駄目!てか無いっ!つり合わねぇしバァカ!お兄さん、別に男だとかそういうのをとやかく言う気はないけど、食満はやめておきなさい…!!

「邪魔するぞ」
「ぞ」

ノックも呼び掛けも無しに襖が開かれ、俺は思考を切りそっちを見る。
まだ目覚めきっていない伊作さんと食満とは対称的に、早朝を感じさせない完璧な身なりの立花と綾ちゃんがいた。
てか、綾ちゃんぞって。ぞって。かわいいなおい。

「身の回りの整理が忙しくて、ご挨拶が遅れました。ほら謝ってください、立花先輩」
「喜八郎、私の記憶が正しければ、その身の回りの整理はほぼお前の関連だったんだが」
「…何しに来た」

和やかな立花と綾ちゃんの会話を、食満が睨んで止めた。空気が緊張し、ぴりっとした感覚が部屋中に立ち込める。
あー…伊作さん達は立花が正気に戻ったの知らないもんな。…むしろ、綾ちゃんが正気なのを知ってるかどうかも怪しい。

「立花先輩を謝らせに来ました」

威嚇程度のものとはいえ、最上級生の殺気にも物怖じせず、綾ちゃんは堂々とした仁王立ちでそう言い放った。何この子、見た目によらず男前。

「立花先輩が気持ち悪くてすみませんでした」
「待て喜八郎、それは別の意味に聞こえる」
「今後も気持ち悪いでしょうが少しは改善されたので、仲良くしてあげてください」
「…」

遠回しに立花が苛められているように見えるし聞こえるのは俺だけだろうか。
綾ちゃんのそれがギャグなのか本気なのか判断できない。ただでさえ綾ちゃん、常に無表情だし。

「…喜八郎、お前はしばらく黙っていろ」
「えー」
「むしろもう帰れ」
「えー。だって、立花先輩の土下座僕も見たいです」

いやいや、綾ちゃん。アノ立花が人に土下座なんてするわけないでしょうが。何ですかその鬼畜なフラグの立て方。
伊作さん達はマイペースな二人(主に綾ちゃん)のやり取りに付いていけないようで、警戒は解かないものの困り顔で黙っている。

「…はぁ。喜八郎、お前はいい性格だな」
「それ程でも」

明らかな皮肉に皮肉で返した綾ちゃんに、俺の中で綾ちゃん最強説が膨らんだ。
だがまぁそれより、諦めたように言ったと思ったら、さっきまでのやり取りが嘘かのように至極真剣な顔で伊作さんと食満に向き直った立花の方が気になるな。


「……すまなかった」



そう言って、立花は、伊作さんと食満に向けて、その場で、土下座した。

立花ぁああああ?!え、フラグ回収すんの?!綾ちゃんのそのフラグ回収、ええ?!お前はキャラ的にその行動駄目じゃねぇの?!いいの?!ねぇいいの?!

ぽかん、と立花のその行動を見ていた伊作さんと食満だったが、先に食満が立ち直ったようで、立花のまさかの姿を見ながら苦虫を噛み潰したような顔をした。

「それで全てが許されるってわけじゃねぇが、俺は何か言える立場でもねぇしな…伊作、お前はどうする?」

なんだ、意外と自覚あんじゃん。
この場面で食満にそんなことを思う俺は性格悪いだろうが、関係ない。だって俺、伊作さんが世界一大好きだもん。
食満に判断を仰がれた伊作さんは、暗い顔で俯く。

「僕は…」

伊作さん、別に許す必要なんて無いんだよ?ついこの前まで仲間だと思っていた奴に殺されかけた…いや、俺がいなきゃきっと殺されていた。
許さなくても、いいんだよ…?誰も貴方を責めないし、責めたとしても貴方に襲いかかる火の粉は一つ残らず俺が振り払うから。

「自分の本意じゃなかったんでしょう?また仲良くしようよ、仙蔵」
「ああ…ありがとう」

立花に笑いかけた伊作さんに、柔らかな空気に戻った室内に、俺は心中で苦笑した。
まったく、伊作さんは優しすぎる。言っとくけど俺は永遠に食満も立花も、それから皆いびり倒してやるから覚悟しろよ?




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