俺が綾ちゃんにしたこと…したこと…悩み?を聞いて、穴から引き上げてもらって、…ん?いや、この時にはもう綾ちゃん気持ち悪い気持ち悪いって言ってたし、正気だったか。
えー、わからん。

俺は無人の部屋で気分的にはうんうんと唸っていた。
と言うか、本当に俺の力で綾ちゃんは逆ハー補正といたのか?たまたま、時間とか、場所とか、そういうのじゃなく?
…そうだ。前もちらっと考えたけど、食満が逆ハー補正をとけたのは何でだ?いやそもそも…そもそも、だ。何で伊作さんは補正にかからなかった…?

いつもなら考えても仕方ないと放置するんだが、綾ちゃんのお願いだからな…期限は一週間。せめて切欠ぐらいは見つけないと。

「ただいまー」

伊作さんおかえ――


俺は自分でもわからないうちに人間の姿をとり、気づけば右腕には手裏剣が突き刺さっていた。

「…はは、間一髪?」
「ぇ…あ、恒希…さん…?」

呆然と俺を見る伊作さんから血だらけの右腕ができるだけ見えないようにして、へらりと笑う。
あー俺、ちょっとキレそうかも。てか今、また俺裸じゃなくて前世の私服だ。意味わからん。

「伊作君、ちょっと此処でじっとしていてもらえるか?」
「…はい」

大人しく頷いてくれた伊作さんに、無礼だとは思いながらも左手で伊作さんの頭を軽く撫でてから部屋の外に出る。
伊作さんを殺す気で放たれた手裏剣。それだけでも相手を再起不能にするには十分な理由なのに。

「恒希、さん…っ!」
「何?」

これ、絶対俺が一番嫌いなパターンだ。
振り返った俺は見えた伊作さんの顔に自嘲する。言われる前からわかってしまった。

「僕は平気ですから、だから、」
「殺さねぇよ」

人の愛に胡座かいて、踏み潰して、だけどまだ愛されていて…そういう奴が、俺は一番許せない。
愛とは世界で一番素晴らしいものだ。これは俺の前世からの信条。曲げる気は死んでもない。文字通り。

「やぁ、七松君ー。お前、手裏剣使える頭あったんだな?ただ拳振り回すだけかと思ってた」
「っ…八代」

出会い頭に半分ぐらい本気で七松の横っ面に放った回し蹴りを受け止める辺り、七松はやっぱり純粋な力はかなり強い部類だろう。

「アナタは、何で伊作達の味方をするの?」
「殺気立つなよ。俺今さ、本気で機嫌悪いんだ。うっかり殺しかねない」

自分で言ったくせに、俺の気持ちと呼応するように指の先に走った静電気のような何かにハッとした。
いや、何俺我を忘れてんだよ。てか今の何?まほーとか?えー…何それ俺化物じゃん。人外じゃん。…あ、最初から人外だった。

気づけば前には本気で怯えた顔をした七松が腰を抜かしていて、厄介にも無意識に相当な殺気を浴びせていたらしい自分に苦笑した。落ち着けバカ。相手は年下だ。

「俺が何で伊作さんの味方か?んなもん、伊作さんが伊作さんだからに決まってんだろ」

ほぼ素で話してしまったことに言った後で若干後悔したものの気にしないことにする。
伊作さんが俺の御主人で、伊作さんは俺を大切にしてくれていて、俺は伊作さんを愛してる。

それ以外の理由は、必要ない。


いつの間にか七松は居なくなっていて、俺は湯飲みに戻って地面に底をつけていた。
…まぁ、あれだけ脅せば七松は大丈夫だろ。
それよりこんな場所じゃ俺すぐ割れちゃう…!伊作さーん!助けてぇえええ!



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