えー、今日は綾ちゃんのお願いを聞いてあげるべく人間になろうと思いまーす。綾ちゃんのお願いってなんか怖いと思うのは俺だけでしょうか?
人間になって着物羽織って紐巻いて着物の前留めて、といつも通りの格好になってから、綾ちゃんの気配を探って首を傾げた。
これは…六年長屋の、何処かの部屋か…?
「とりあえず行ってみるか…」
長屋内なので、少し走れば綾ちゃんの気配のする所に着いた。誰の部屋だかは知らないが、ノックの時間も惜しいので襖を開け放す。
「綾ちゃん、来たぞうわ?!」
俺は明らかに攻撃目的で飛んできた何かを壊そうと手を伸ばし、それが何かを認識するなり伸ばした手で逆に壊さないようにキャッチした。
だってお前、明らかに高そうってか絶対高い簪投げられたんだぞ?!ちくしょー、なんてスタイリッシュな攻撃してきやがるんだ!なんか壊しづらくて受け止めちまっただろうが…っ!
「ちっ…!」
「舌打ちしたいのは此方だ…!」
立花仙蔵――伊作さんを裏切った、俺の敵であるそいつを目の前に、とにかくちまちま攻撃され続けると実際の経験の差が出たりして面倒なので、手刀を一発首の後ろに放ち気絶させた。
気絶した立花を自分で縄脱けできないように、単純にきつくかつ第六感様々で複雑に部屋に置いてあった縄を拝借して縛った。そんな一連の流れを終えてから、俺に拍手している綾ちゃんを引きつった顔で見る。
「…綾ちゃん、まさかの立花と共謀して俺の闇討ち?」
「違いますよぉ。立花先輩はちょっと待っててください」
「…いやまぁ、気絶してるし縄で縛ったから待つ以外選択肢ねぇだろ」
…何だろう、いきなり攻撃されたんだから立花が加害者で俺が被害者なはずなのに、綾ちゃんが加害者で立花が被害者に思える。
「で、どういうこと?」
「簡潔に言うと、立花先輩が気持ち悪いので助けてください」
さらりと言われた内容に、俺はゆっくりと立花の方を向いた。
……なんか悲しい気持ちになってきた。
「えっと、縛らない方がよかった…?」
「正気に戻してください」
「…ごめん、簡潔過ぎてわかんない」
もう少し詳しくお願いします、と苦笑する。綾ちゃんとは制限時間無しで話したいなぁ…不可能だけど。
綾ちゃんはいやに真剣な顔で真っ直ぐ俺の目を見た。
「立花先輩の天女の呪いも解いてください」
「呪いって…そもそも解き方わからな…ん?"も"?」
「僕の呪いも解いてくれたでしょ?」
え?
不思議そうに俺を見る綾ちゃんを、俺も頭に?を飛ばしながら見返す。
「前に僕の呪い、解いてくれましたよね?恒希さんは、凄い人なんでしょう?」
「え?いや…」
確認するように聞かれ、俺は言葉を濁す。
俺がモッチーの言う逆ハー補正を解いた?何で?いつ?どうやって?
「無意識なんですか?」
「そうかも…」
「僕は今まで天女の悪口は一切言えませんでした。それどころか少しでも嫌だと思った瞬間、その気持ちが消されました。恒希さんと会って、初めて僕は正気を取り戻せたんです」
嫌悪感が消される?感情の消去…?
俺は鳥肌の立った身体に気づかないふりをして、真面目な顔で綾ちゃんを見た。
「…わかった。一週間後また時間もらえるか?やれるだけのことはやってみる」
「はい、お願いします」
一度頭を下げてから手を振る綾ちゃんは相変わらずかわいい。俺に伊作さんがいなくて人間だったらメロメロでした。いや、今でもきゅんとはしちゃいますけど。
縛られたままの立花は若干気になったものの、まぁ綾ちゃんがほどいてくれるだろうと楽観的に考え、すぐ近くの伊作さんと食満の部屋まで走った。
本当に俺が綾ちゃんの逆ハー補正を解いたんだとしたら、俺のした何によって補正が解かれるかわかれば、全員のものが解けるはずだ。だって俺はあの時綾ちゃんにそう特別なことはしていない。
それにしても綾ちゃん、俺のこと立花のために呼んだのか。綾ちゃんは何だかんだ、先輩想いのいい後輩だよなぁ…。