モッチーの紙を見ていた俺は、にわかには信じがたい内容に何度か自分にこれは真実だと言い聞かせながら読み進めた。
ちなみに湯飲みボディでどうやって読むんだよ、という疑問が発生する危険性を踏まえ先に言っておくが、紙は人間状態の時にばさっとテーブルの上に広げておきました。読み終わったら誰かに見られる前に速攻で焼却に走ります。
あー読みにくい。横になった湯飲みが若干の振動で微妙に転がって読みにくい。体育委員か。この地面の振動、体育委員のせいか。


で、モッチーに書いてもらった紙の内容なんだが…要約するとそれはつまり――

モッチーはこの世界を前から知っていて、今伊作さん達が生きているこの世界は誰かの創作した作り物の世界で、それを創作した――言うなれば神様のような創作者が作ったものを基に、創作者が作っていないはずのキャラクターを主人公、またはヒロインや話の要とすることで、また新しい二次創作と言われる話を作る人がいる。
それは夢小説…そう呼ばれるジャンルの二次創作で、逆ハーの天女もので傍観、なんていう今の自分と酷似した話を、モッチーは前の世界で何度も見たことがあるという。ちなみに最後は大体天女が殺されるらしい。


…ふぅ、何も知らないくせにモッチーの話を信じられなかった奴等に腹立てるもんじゃねぇな。だってこんなの、自分達の存在否定もいいとこじゃん。モッチーも馬鹿じゃないからもっと違う言い方で、話すとこと話さないとこ考えて言っただろうが…これは信じられないわ。ありえない。信じる方が狂ってる。

俺以外、きっと誰も信じない。


「食満先輩、いらっしゃいますかー?」

声が聞こえた瞬間、俺は痛む身体を押して人間となり、今まで読んでいた紙を焼却は間に合わないからぐちゃぐちゃに丸めて水に浸けた。念を押してさらにそれを細かくちぎり、ゴミ箱に放る。
字は筆で書かれていたし、水に滲んで千切られて…もうさすがに読めないだろう。まぁ、どうせ読まれてもおとぎ話と思われて終わりだろうが。

「…失礼します。食満先輩…?」

中から音がしたから入ってきたんだろう食満の後輩と思われる少年に、俺は瞬時に湯飲みの姿に戻った。
少年はキョロキョロと室内を見回し首を傾げた。うむ、黄緑の装束だから浦風と同じ三年かな。

「この部屋…」

ぽつりと呟いた少年は、気が抜けたように俺の置いてあるテーブルの前に座り込む。
いつしかの潮江のことを思い出した。潮江といい、この少年といい…この部屋が何なんだ?何かあるのか?
いや、それにしても勝手に人の部屋で帰りを待っていて許されるのは、親か相当気を許した親友か愛し合ってる恋人だけだと思うぞ?常識的に君は一回帰るべきだ。

「…食満先輩、まさか天女に何かされたんじゃ…っ!」

少年の頭の中で何がどうなってそんな結論に達したかは不明だが、突如少年は蒼白な顔で立ち上がった。えー…意味わからん。
…ん?てか、この子もしかして逆ハー補正とやらにかかってない?
だとしたら…万が一勢い余ってモッチーを殺しにいかれちゃ困るな。今もう一度人間になるのは命削りそうで嫌なんだが…やむを得ないか。

「伊作いるのか?…作兵衛?」
「食満先輩ぃいい!無事だったんすねぇえええ!」

食満、いいタイミングで帰ってきてくれた。そこの半泣きでお前にすがりついてる、えっと作兵衛君?その子俺の手に負えないから何とかしてくれ。

「今日はどんな恐怖妄想してたんだよ。俺は無事だから安心しろ」
「はい…っ!」

恐怖妄想…?何それ怖い。よくわからないけど、作兵衛君は電波ってこと?うわぁ…なんか自分が今、俺湯飲みなんです!(真実)って言ったら電波だと思われるんだろうなっていう、同族嫌悪に似た理由によって関わりたくなぁい。
人間になった時もなるべく近づかないようにしよう。よし、そうしよう。

結局作兵衛君は用具委員会の連絡があって来ていたらしく、食満とあれこれよくわからない工具的な話をして帰っていった。
…そういえば、最近伊作さんから(間接的に)保健委員会の話聞かないなぁ。何かあるのか?



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