最近考えてもわからないことが多すぎてストレスが溜まります。発散法は基本伊作さんの笑顔なんですが、伊作さんの笑顔自体が最近減ってしまったので降り積もります。
皆様こんにちは。俺は今日も走ってます。湯飲みです。
「あ、恒希さん」
「おう、綾ちゃん!ごめんだけど俺急ぐから」
命の恩人綾ちゃんと出会い、名残惜しくも手を挙げてその横を通り抜けるべく走った。
モッチーから書いてもらった紙を受け取る使命さえなければ、改めてお礼をって止まったんだが…ごめんよ綾ちゃん!
綾ちゃんの横を通り過ぎた瞬間、何かが抜かれたような感覚がして、第六感から俺は立ち止まった。ゆっくりと視線を下げる。
「…っ?!ちょ、綾ちゃん何してくれてんの?!その紐なきゃ俺露出狂だから!不審者だから!」
着物の前を留めていた紐を盗られたとわかり、俺は手で着物の前を押さえ冷や汗を流しながら綾ちゃんの元まで戻った。
「返して欲しいですか?」
「それはもう!」
「…恒希さん、僕に恩がありましたよね?」
あっさりと紐を俺に返しながら言った綾ちゃんに、何故か冷や汗が増した。俺の第六感が何かを告げている。
とりあえず紐を受け取りささっと巻き直して綾ちゃんを見る。
「逢い引きしましょう」
「無理無理無理、時間ない」
「というのは半分冗談で…」
半分かよ!てか俺時間ないのに冗談なんて飛ばしやがって、お茶目さんめ…。これで顔がかわいくなかったら酷かったぞ?!
まぁ、そもそも俺湯飲みだし本心からなわけがないんだがな。
もう制限時間が半分しか残っていなくてはらはらしていると、そんな俺の様子に気づいたらしい綾ちゃんが目をぱちぱちとさせた。
「時間ないんですか?」
「常にないけど、俺に何か用なら必要なものあらかじめ用意してからの方がいいと思うぞ。俺、途中で時間切れになって帰らなきゃいけなくなるかもだから」
「…ふーん」
綾ちゃんはわかったのかわかっていないのか、無表情にそれだけ言って腕を組んだ。
「いつなら空いてます?」
「常に空いてない。でも、あー…一週間後、六年長屋の近くで必要なもの用意してくれた状態なら、50秒は時間とれる。悪いけどそれ以上は無理だ。不可能」
早口で伝え、おそらく鬼気迫る顔で綾ちゃんの返事を待つ。
「わかりました。では場所は…」
「六年長屋の近くにいてくれれば勝手に見つける!悪い!じゃあな!」
「はい、また一週間後に」
綾ちゃんの言葉を遮って叫び、残り時間5秒の中俺は走った。最後の1秒まで、俺は希望を捨てない…!
食堂に飛び込んだ俺は、モッチーの姿を視認するなりもはや無意識の域で叫んだ。
「モッチー、ごめん今日時間とれない!紙だけちょうだい!読んどくから!」
「は、はい!これです!」
「ありがと!」
モッチーには申し訳無さすぎるが引ったくるように紙をもらい、俺は脇目も振らずに伊作さんと食満の部屋まで駆け抜けた。
「っげほ!っは…!」
どんな死線を潜ってきたのかと問いたくなるような悲惨な風貌だろう俺は、なんとかテーブルに高速で這い登り湯飲みに戻った。今なら俺、ホラー映画主演やれます。
…はぁ、はぁ。今日こそは、駄目かと思った。死ぬかと思った。綾ちゃんマジ怖ぇ…。
今回、まさに滑り込みセーフだったせいで湯飲みの体が横に倒れてるし。これ何かの衝撃で転がって畳に落ちたら絶対割れるぞ?今の俺の耐久力相当ぺらぺらだぞ?
あー…モッチーに書いてもらった紙見よ。