今日こそはモッチーに色々と書いてきてもらうように頼む、と勢い込んで、俺はモッチーがいると思われる食堂まで走っていた。
前回の一件から周りを注視するようになったんだが、そうすると走りながらでも幾つかのことに気づいた。まぁ、これについては追々話そう。
俺は食堂に飛び込み、そこで仕事をしているもう見慣れた姿に名前を呼んだ。
「モッチー!」
「恒希さん…!あ、おばちゃんちょっとすみません!」
笑顔でモッチーを送り出してくれた食堂のおばちゃんと思われる女の人に、俺は軽く会釈した。仕事中なのに私情で連れ出してすみません。
俺は誰にも会話が聞こえないよう念のため食堂の隅までモッチーの手を引いた。モッチーは慌てているのか顔を赤くしながら俺の隣に立つ。
「悪いんだけど、一週間後までに前の世界のことと専門用語についてを紙に纏めておいて欲しい」
「え、あ、でも…」
「何?ああ、忙しい?それなら二週間後でも、」
「そうじゃ、なくて…」
言葉を濁したモッチーに視線で訳を問う。モッチーは俺に時間がないことを知っているため、気を遣ってか渋々ながら口を開いてくれた。
「私の話は、逆ハー補正にかかっている人達にも信じてはもらえませんでした。この時代では、まるで絵空事です…」
悲しそうに苦笑しながら話すモッチーに、俺は目を細めた。
つまり、モッチーは表面上は異常なまでに崇められているが、一番受け入れて欲しいところは未だに受け入れてもらえていない…ってことか。
勝手に天女とか祭り上げて、天女らしくないところは否定?…何だそれ。
「モッチーは天女じゃないじゃん」
「え…?」
「そいつ等が信じなくても、俺が信じるから。俺も人に話しても絶対信じてもらえないような経験してるから、わかる。だから教えて」
実は自分の正体は湯飲みです、より信じられない話があるかと念を込めモッチーに笑いかければ、モッチーの瞳から水滴が落ちた。
…?!
俺、また泣かせた?!何やってんだよ俺!女泣かせるとか最低じゃねぇかよ!
あぁあ、ごめんなモッチー!そうだよな、自分の悩みを湯飲みなんかと一緒にされたくないよな!よし、全面的に俺が悪かった!だから泣き止んで…っ!
「っ…はい!」
え?
泣きながらも満面の笑みで言ったモッチーに、よくわからんが悲しそうじゃなかったため、俺の心からの謝罪が届いたのだと勝手に解釈した。
とりあえず教えてもらえるみたいなのでよしとしよう。
「よし、じゃあモッチー、よろしく!あー、また一週間後に取りに行くから、できれば今ぐらいの時間一人でいてもらえるか?」
「わかりました!」
「うん、じゃあまたな」
「はい、また一週間後に!」
よしよし、今日は初の何のアクシデントも無しに終われそうだ。
「恒希さん…!」
「ん?」
俺が背を向けてすぐモッチーに名前を呼ばれ、平静を装いながらも内心はまさかフラグ回収する気か?!アクシデントか?!と焦りながら振り返った。
「大好きです!」
モッチーは顔をほのかに赤らめながら、最高の笑顔を俺に向けた。
おいおい、俺が湯飲みだったからよかったものの、普通の男にそんなこと言ったら勘違いするぞ?まったく…かわいいから許す。
「おう!」
機嫌良く帰った俺が、綺麗に畳んだ着物と目的を果たした充実感でガッツポーズをしてから湯飲みに戻るのはもうすぐ。