今日も今日とて一分間の人間タイム状態で俺はモッチーの元まで走っていた。モッチーの話す専門用語や情報、前の世界について話してもらう…否、時間ないし次の時までに文に纏めてもらうのが今回の目的だ。

いや、だった。
俺は今、今世最大のピンチに陥っている。



凶悪で鬼畜なトラップに嵌まって動けないよ!
救いにもならない救いは、伊作さんの部屋から出て数秒もしないうちにかかったこと。だから時間には余裕が…ないけどな!常に秒単位の世界だけどな!

そもそも、何故神様直伝の第六感を持っている俺がトラップなんかにかかったのかというと、全てはこのトラップがいかに残酷でえげつないかに由来する。
まず、足がある一定の地帯を踏むと仕掛けが作動するようになっていた。当然俺は嫌な予感に従って飛び退こうとした。だが時既に遅し、大量のくないが降ってきたため真っ青になって慌てて避けた。ギリギリで全部避けきれた俺は憔悴しきっていて気づかなかった――避けきった場合には、その強者をあるところに導くようにくないが配置されていたことに。危なかったの声は悲鳴に変わった。そしていやに下がネッバネバで身動きのとれない薄暗い落とし穴に落ち、現在。動けません。

「…っわあぁああ!俺の馬鹿!罠にかかって動けないとか阿呆過ぎる!ネバネバとれない!時間過ぎる!俺死んだぁああ!」
「おやまあ」

俺が叫びながら、死んだらこのえげつない罠を作った誰かを呪うことを誓っていると、すぐ近くで声がした。
勢いよく穴の外を見上げれば、それはそれはかわいい子がパッチリと大きな目で俺の落ちている穴を覗き込んでいた。

「その着物、アナタが浦風の言っていた天女の想い人ですか?」
「…」

無表情ながらかわいらしく首を傾げた子に、俺は不覚にもちょっときゅんとした。
…いやいやいや、俺きゅんとかしてる場合じゃない!今生死の境目!
残り時間は約40秒。浦風?ってのは確か前にモッチーと一緒にいた奴だな。少なくとも伊作さんの話では忍たまの9割以上がモッチー親衛隊だから、あれ?そういやくのたまってどうなんだろ。これは後々調べる必要が…って!それより今俺が死ぬか死なないかの時っ!命あっての物種!

「僕はね、穴を掘るのが好きなんです」
「え?そ、そうか」

何で急に話が変わったかはわからんが、話を合わせておこう。とにかく今俺を助けられるのはこの子だけだ。

「天女様が好きです」
「うん」

あれ?この子、さっきまでモッチーのこと天女って呼んでなかったっけ?聞き間違い?

「でも、僕は穴を掘るのが好きなんです。大好きなんです。一番なんです」
「…いいんじゃない?」
「なのに、天女がいるとそうじゃなくなる。気持ち悪い。僕は前のままが好き。今は嫌。天女を好きな自分も嫌」

無表情のままなはずなのにどこか苦しそうにその子は言って、助けを求めるように俺を見た。いや、助けてほしいの俺なんだけど。

「はい」
「え?」

急に手を差し出され、俺は困惑しながら俺を見下ろしている子を見る。その顔はさっきまでとは違って、苦しそうじゃなかった。

「掴まってください。それ、しんべヱの鼻水ですから、僕も引っ張れば脱け出せますよ」
「…ありが、と?」

この粘着力、どんな鼻水だよとか言いたいことはあったものの、お言葉に甘えてその手を握った。
俺はその時気づいた。この子、男だ。しかもずっと努力してる、忍たまだ。だって、手が違う。
意外にも強い力で引き上げられ、やっと明るいところで相手の全身を見た。藤色の装束…伊作さんが一昨年着てたから…四年、か。

「恒希さん、ありがとうございます」
「え、何でお前が礼言うの?」

何で名前を知ってるのかは、多分モッチーか浦風?にでも聞いたんだろうとして、謎の礼の言葉に俺は疑問符を浮かべた。この子、よくわからん。あれかな?話聞いてもらえて嬉しかったのか?

「僕は綾部喜八郎といいます。天女より親密に呼んでくださって構いませんよ」
「何その謎の提案」

あまりの不思議っ子ぶりに、俺は思わず少し笑った。
とか和んでる場合じゃない。残り時間10秒切ってる。今日こそ俺は着物を畳むんだぁあああ!

「っと、じゃあ綾ちゃん!助けてくれてありがとな!あー…またお礼に行くから!ごめん、またな!」
「はい、さようなら恒希さん」

俺はその後、いつも通り猛ダッシュした。幸い六年長屋を出てすぐに穴に落ちたため、此処から伊作さんと食満の部屋はすぐだ。つまり!

俺は速攻で部屋に駆け込み、ただし襖には気を遣い優しく開けて閉め、直ぐ様雑ながら着物を畳んだ。畳んだ!そう、俺はやったのだ!やり遂げたのだ!
そして高揚した心のまま、テーブルの上で湯飲みに戻る。

…しかし3分後、落ち着いた俺は現実を直視して気づいた。


着物がドロッドロのベッタベタ!しかも俺の足もその状態だったから畳が…っ!え、これまさか廊下も?!
……なんか、あの、日に日に事態を悪化させてごめんなさい。気持ち的にはスライディング土下座です、はい。



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