一年は組の子達を救うべく、俺は今日も元気に走っている。こんなに慌ただしくドタバタ煩いヒーローが居てもいいのかと思うが、少年漫画の主人公は割りかしそんなんな気もする。
…それもそれで、自分の精神年齢幼いって言われてるみたいで悲しいものがあるな。

「はいとうちゃーく!」

第六感百パーセントで到着した長屋の襖を勢い良く開く。と、一年ろ組のハムスター集団とはまた違った、好奇心旺盛な子犬の群れのような子ども達がわっと玩具を見つけたような速さで寄って来た。

「わぁ、あなたが噂のヒーローなんですね…!」
「凄い人なんですよね?プロ忍で、しかも…シンセイ?ん?シンジン?だっけ?」
「とにかく凄い人でいいだろ」
「そんなに凄いなら、すっごく美味しい食べ物を魔法で出せたりするのかなぁ…!ねえねえ三治郎、出来そう?」
「やろうと思えば出来るんじゃないかな。それより皆、八代様に失礼だよ」

想定を上回る謎の言語を同時に喋る一年は組の子ども達に俺がなす術もなく動揺していると、その筆頭と思われる少年の鶴の一声によって子ども達は俺を囲んで正座し、頭を下げた。…所謂土下座の大勢である。

待って。何これ待って?!ちょっと怒涛の展開過ぎて渦中のはずの俺がまるで付いて行けてないよ?!
この、まるで俺が幼気な子ども達に土下座を強いているような人間性が疑われかねない状況は何?!俺が一言も発する前に精神力抉り取られてるんだけどどういう事?!

「…お兄さん怒ってないし、皆頭上げよ?な?」
「慈悲深きお心、感謝致します」

何故か執拗にへりくだった筆頭君の返答に、俺は乾いた笑みを浮かべた。
そんな気はしていたが、漸く顔を上げてくれたこの筆頭君の顔には見覚えがある。

「…久しぶり、三ちゃん」

やはり貴様だったか三ちゃん…電波少年よ。

「はい。八代様は相変わらず真っ白のキラキラで在られますね」

相変わらず君は理解出来ない褒めてるっぽい言葉を掛けて来るね。

「何故君は、前に会った時よりへりくだりまくってるのかな…?」

そう、これがさっきから気になっていた。前は無邪気かつ怖い子どものように俺に敬語を使ってただけだったはずだけど、今のその口調は何なんだい?何でそんな謎のレベルアップを遂げたんだい?ぶっちゃけ聞くのも怖いけど。

「以前の八代様も御加護をくださる力がありましたが、現在の八代様はキラキラを作り出しておいでです。なので父より習った振る舞いをしているつもりですが、無礼がありましたらごめんなさい」

ああ、うん。謙譲語と言うか敬語として変な所が多いのは、お父さんから教えてもらったって言っても見様見真似に近いのかな多分。むしろ覚えも無いのにこの年頃の子に完璧な敬語使われた方が怖いから良かったけど。
ちなみに他の点に関しては自分から聞いておいて難だがスルーしたい。だって俺はその謎の白いキラキラを養殖した覚えなんて無いし…!ほら周りの子ども達だって三ちゃんに言われたからやってまーす意味はわかってませーんってきょとん顔で俺等のやり取り見てるし!!

「俺、君達の補正を解きに…君風に言うと加護を与えに?来たんだけどさ、詳しくわかってないしもう時間無いんだけど…どうしたらいいかな?」
「僭越ながら、僕が視える範囲で説明させて頂くと、八代様と近い空間に居るだけで邪気は浄化され加護を受けられます。既に此処の皆を取り巻いていた僅かな邪気も消えました」

お、おう。九割方意味が理解出来てないし出来るものなのかもわかってないが、凄く重要なヒントを貰った気がする。後でちゃんと整理しよう。
とりあえず今は、加護はもう充分で、俺は帰っていいって流れなはずだ。…時間が無いので慌ててるだけです。別に一刻も早くこの空間から逃げ出したいとか思ってません。涙目なのも気のせいです…!

「そっか!それは良かった、解決だね!ごめん俺時間無いからじゃあね!!」

俺は脱兎のごとくその場を駆け出した。後ろから聞こえるありがとうございましたの合唱に、またこれはきっと皆土下座態勢を取らされている、と俺の第六感がわからなくていい範囲まで嗅ぎ取ってくれた。俺は強制していない。そんな趣味はない。俺は悪くない。
と言うか何でよくわかってなさそうなのに皆素直に三ちゃんに従ってしまったんだ?!友情か?!友愛の成せる信頼か?!そう言われたら俺も返す言葉を無くし納得せざるを得ないぞ?!

混乱と戦いながらも何かにまだ背中を追われているように俺は走り続けた。そうしてやっと辿り着いた俺の帰る場所、伊作さんの部屋に滑り込み湯飲みに戻る。
急に訪れた静けさとあまりの穏やかな日常的風景。俺は安堵感に逆にさっきまでの恐怖を実感し、意地を張らず骨の髄まで認める気になった。

もうやだ三ちゃんこわい!いっそ今までで一番こわい!!たすけて伊作さんっ!今すぐ俺に梅昆布茶淹れて美味しく飲んでお願い!!


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