最近じゃもう俺は、自分の目(今は無いけど)や耳(今は無いけど)で見聞きしたものより、与えられた第六感を信じていた。
何故なら、その方が確実だからだ。
見える、聞こえるものには容易く限界が訪れる。例えば、感情は見る事も聞く事も出来ないように。
得体の知れない神様から貰った形の無いそれを俺がこんなにも簡単に信じ切っている、信じ切れるのはきっと、不確かな感情達に支配される人間が羨ましくて…そんな感情を手に入れた今でも、持っていなかった時代の俺を俺は覚えているからだ。
どうせなら、前世の記憶全部忘れてたとかなら良かったのに。って、それは都合良過ぎか。
だから俺は、伊作さんと食満が此方を見ていない隙に人間に変身し、即座に着物を羽織った。
セ、セーフ…!伊作さんに突然変態よろしくヌード姿なんて見せようもんなら、二度と顔向けできなかったわ!食満ならすまんで済ませたけど!
「え?!」
突如現れた俺に目を見開く伊作さんと警戒態勢を取った食満に、ゆっくり話したいのは山々だが勿論今日も俺は時間が無い。
「お邪魔しましたぁああ!」
転がるように部屋を飛び出て、闇雲に走り出した。闇雲でも第六感が導いてくれる事は知っていたから。
俺は今、何の根拠もない突然の漠然とした不安の為に走っていて。止まらないこの焦燥がとにかく怖くて。
わからないけどわかっていた。伊作さんは部屋に居る。俺の焦燥の先は部屋の中じゃなかった。
田村君に俺が自分にも理解出来ない感情を抱いている事は認めるが、彼に何かあったなら俺はこんな思考さえしていられない。忘れて尚魂にこびり付いた想いがあるから。
走ると右耳の鈴のピアスが、聴覚を遮るようにけたたましく鳴る。無理矢理意識を逸らした。俺はもう、ーーじゃないから。
俺が今走っている理由は、この世界で二番目に愛している優しい女の子のピンチを救う為だから。
「モッチー…!」
大丈夫、俺はいつだって最終的には間に合う。