脳髄に鈴の音の余韻を残しつつ、ぼんやりと、伊作さんを見ながら今日も今日とて俺は湯飲みをしている。
ニコラは何者なんだろうな。物の怪と言うには何処か神々しく、けど神と言うには何かが違う気がするんだよなぁ。

田村君も気になるけど…でも、俺は、俺のこんなどうしようもないもやもやを解消したいと思うより、もっとやるべき事があるはずで。
田村君は浅実さん派。それってつまり、逆ハー補正は大して問題ないレベルって事だ。よって俺が田村君にわざわざ会いに行くより、浅実さんの目的を探る方が建設的だ。

大丈夫、大丈夫。俺の前世の記憶が今に関わるなんて事あり得ないんだから、後回しにしたって平気だ。
そう、今の俺には伊作さんが居るんだからな!

「なんか、」
「ん?今喋ったか伊作」
「なんか、嫌な予感がする」


え。
心機一転した俺の心を挫くようなまさかの伊作さんの一言。

「お、おいやめろよ。お前のそういう勘結構当たるんだから」
「そう言われても。だってするものはするんだよ」

険しい顔で言っている伊作さん。そんな伊作さんもイケメン。しかしそういう話ではない。

「あー、あれだろ。この前言ってた八代さんと田村の」
「うーん…そうなのかな?」

伊作さん!それ以外の危険性を示唆するフラグはやめて!さっきからフラグ乱立させてます!このままじゃフラグに殺されます!!

「じゃあ綾部とかその辺との恋愛のいざこざだろ。そういう事にしとけ」
「それむしろ僕が嫌なんだけど」
「お前の嫌な予感なんだから、お前は嫌な想いしなきゃ駄目だろ」

おい食満ふざけんな、お前が嫌な想いしろ。むしろ俺でもいい。それで伊作さんが嫌な想いしないならそれがいい!

「今日は、天気も悪いね」
「……関係ねぇだろ」

確かに、今日は湿度で俺の汗が留まる所を知らない程の、土砂降りだった。


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