一応俺にも生存本能があったのか、気づけばいつの間にか伊作さんの部屋で転がっていた。
身体中が軋むように痛む。痛い。いたい。いたい。

胸が詰まり息すらしにくいような感覚に、何も考えられない。

田村三木ヱ門。
知らない。あんな少年は知らない。でも似ている。
そう、誰かと酷く似ているんだ。勝手に涙腺が弛みそうになる程、俺の忘れた誰かと似ている。

お前は誰だ。


「田村はどれだけ聞いても知らない、いきなり来て変な事言ってただけだって」

部屋ではあの時の俺の様子を心配してくれているらしい伊作さんが、不満気に食満にそんなはずないと愚痴っていた。
田村君には、悪い事したかな…本当に田村君は何もしてないのに。

「何も無くて人は泣かない」

…うは、バレてたようだ。泣きそうだったの。恥ずかしい。

「田村なぁ…でも確か、田村は望月さんと言うか天女側じゃなく、」
「そう、浅実さん側。何もされてないのにこう言うのも難だけど、僕、望月さんは嫌いだけど、それより得体の知れない感じがして嫌なんだよね」

…へぇ、田村君は浅実さん側なんだ。あの人も何がしたいのかよくわからんよな。
いやまぁ、あっちからしたら俺のが得体知れないか。何と言っても正体が湯飲み。予想出来なさパネェです。

「田村の補正、解いたら解いたで余計浅実さん側に傾くような気もするんだよね…」
「まぁ、とは言えやってみない事にはなぁ」
「やれるのは恒希さんだけだけどね」

伊作さんと食満は顔を見合わせ溜め息を吐いた。
何で力与えられたのがよりによって湯飲みな俺なんだろうね。もっと自由に動ける奴なら色々楽だったろうに、無駄にキーキャラなこの感じ。

「でも僕は…あんまり、恒希さんに田村に近づいて欲しくはないなぁ…」
「八代さんが泣いてたって話か?」

やめてお二人!その話もうこれ以上蒸し返さないで!くっそ、俺年上なのにこの辱め…むしろ今泣きたい!

「それもあるけど、それより恒希さんが田村を見るあの目…」
「は?目がどうしたんだ?」
「……愛おしむようで、切なかった。恒希さんにとって、いい思い出なわけない」


ああ…心配してくれるんですか、伊作さん。ありがとうございます。

でもね、俺にとって確か――それはそう悪い思い出じゃ無かったはずなんですよ。確かね。
だから俺は思い出したい、よ。


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