「なんて事だ」
私は人気の無い会場を再度ぐるりと見回しもう一度口を開いた。
「なんて事だ」
大事な事だったようだ。
焼肉定食弱火でじっくり。確かに間違っていなかったし、店主さんは何故か酷く驚いた顔をしていたが通してくれた。部屋がエレベーターだった。肉の脂身はもう少し控えめが好みだと思った。
しかし何故、誰一人居ない?試験官というかハンター試験運営側の人が一人ぐらい居るはずでしょ?
私が不安であわあわと意味もなく動き回っていたその時、エレベーターが新たな人の到着を報せた。
救世主!と目を輝かせエレベーターを凝視する。出て来たのはスーツ姿で豆の様な頭をした小柄の男だった。
「わっ!早いですね、まだ三日前ですよ!」
1、と書かれた番号札を渡されながら言われた言葉の意味に、私はぴしりと固まった。
三日…前…?そんな馬鹿な。私の中の今日と実際の時間が合わない。いやそれより私はこれから三日、何をして時間を潰せば…嗚呼…。
取り出した携帯は圏外の文字。そりゃ地下だしね、試験会場の場所漏洩されちゃ困るもんね。既に漏洩された知識で私は来たけど。
「ね、寝るしかない…十七時間寝てから来たけど寝るしか道は残されていない」
私は掠れた声で自己暗示するように独り言を零し、人目がほぼ無いのをいい事にその場に丸まった。幸い仕事の時と同じ服装で来たので、この真っ青なパーカーのフードをかぶれば床に直接顔がつく事はない。私の寝相もそんなに悪くなかったはずだ。ちなみに豆顔の人と会話するという選択肢はコミュ障な私には最初から存在していません。
それから私は結局二時間もの間眠れず、目を閉じたまま二人の空間で沈黙のストレスに押しつぶされそうだった。どうやら既にハンター試験は始まっていたらしい。まさかこんな序盤から精神負荷を与えて来るなんて…ハンター試験恐るべし…。くっ…急に受かるか心配になってきた。