「どうだった?」

先に脱け出した団長に合流したオレは、その問いに口端を上げてみせた。

「最初は全然手応え無かったんだけど、団長の言葉借りて呪い解いてやるって言ったら殺気向けられたよ。あの、向けられた本人以外にはどれだけ凶暴な殺気かもわかんない、針みたいに研ぎ澄まされたやつ」
「それは羨ましいな」
「冗談じゃないってば。さっきこそヒスイさんが完全に忘れてるわけじゃないってわかった嬉しさで気にならなかったけど、今思い出すと…すっげー背筋冷たくなる」

思わず身震いした。
だいたい、昔みたいに冷たい表情とか態度とかしてないから念を使えない奴等はころっと騙されるのかもしれないけど…あんな一点の乱れもない纏は勿論、あの変わりない、オレ達にさえ気づかせない程の恐ろしく性能が良過ぎる絶を持ちながら一般人面なんて、片腹痛いよね。
確かに昔と違って隙だらけだ。けど誰もあの人を殺す事は出来ないだろう。あれは、強者の余裕に似ている。
むしろ今の柔和な雰囲気と態度が、その実力とちぐはぐで奇怪だ。強い念能力者だったらよっぽどの変わり者じゃない限り、彼女にちょっかいを出そうとは思わないだろう。

「それに、ちょっと調べてヒスイさんにも聞いてみたんだけど…ヒスイさんの反応見る限り、時の魔女の仕業でビンゴかも」
「時の魔女、か。記憶を消す念能力者か?」
「確証は無いけどね。なんせ、ネット上に魔女と実際に会った本人からの証言だけは総じて無いんだ。その記憶も消されてるのかもしれない」
「ふむ。会う方法は?」
「魔女に電話して、質問に正しく答える事。番号こそ出回ってるけど、質問は毎回変わって正答率は一万人に一人も居ない。どんな仕掛けかわからないけど、同じ番号は当然としても同じ人間が電話しても繋がらない」
「なら試しに誰かに電話させてみるか。ペナルティは本人が二度と挑戦出来ない以外に無いんだろ?」
「うん、オレもそれに賛成」

少しも逡巡は無かった。とにかく、ヒスイさんの記憶をオレは戻したかった。呪いを解きたかった。その為にやれる事はやるべきだ。――彼女の様子を見るに、本人は解いて欲しくない事なんてわかっているけど。
今の彼女が幸せそうに見えたなら放置するのもやぶさかではなかった。いや、態度は幸せそうだった。空っぽに。あれをオレは幸せと呼ばない。

「魔女の番号は教えておくね。オレは引き続き魔女の情報と、除念師も探してみる」
「ああ、頼む」

簡単に言って視線を逸らした団長の横顔を見ながら、オレは眉間に皺を寄せた。
この話の一番の問題は、いかにして彼女の記憶を戻すか、戻せるのかじゃない。その後だ。

団長は――クロロは、それについてはどう考えているんだろう。



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