二次試験の女性の試験官さんの方が発表されたその内容は、私にとても有利なものだった。
異世界の日本からこの世界に来た私は寿司を知っている。いや、寿司がこの世界のものと同じかはわからないけど調理器具なんかを見た限りでは同じだと思う。寿司どころかちゃんと魚を捌いた経験は無いので、厳しく行くらしい審査を通れるかはかなり微妙だけど。
だからそこは魚じゃなく別の物を使うのが王道らしく……ん?大道?何の話だろう?

と、私が自分の記憶にうんうん悩んでいる間に他の受験者達がまるっと居なくなっていた。

「…えーっと、そう、魚じゃないなら、寿司は…貝、卵、後は肉か」

とりあえずさくっとグレートスタンプを狩って、捌き方なんて知らないので適当に内臓取って捌いてみる。血抜きのやり方ぐらいは調べておけば良かった。いや血抜きなんてしてる時間は無いか?
肉の両面に軽くだけ塩胡椒を塗して焼きながら、ご飯に酢を混ぜて酢飯にする作業と、ソースと醤油と砂糖、それからほんの少しだけの生姜でさっとあっさりしたステーキソースを作る作業を行う。
裏返した肉にステーキソースをかけてそのまま焼いて行けば、まあ普通に美味しそうだ。ステーキソースがそこそこ肉の臭みやら血臭を消してくれると信じよう。
焼けた肉を一口大より少し大きめの、下のご飯の二倍ある寿司屋のあの大きさに切って、なんとなくの知識だけで酢飯をそれっぽい形に握って上にグレートスタンプステーキを乗せ、その上にバジルっぽい味の細かい草をぱらっとかけた。

…まあ、初めてにしてはそこそこの出来。だと思う。

「出来ました」
「1番ね、あんた早いわね。他の奴等と魚を獲りにも行かずにこれ作ってたって事は、寿司知ってたわね?」
「出身地にあったので」
「ふーん、じゃあ期待しておくわ」
「いや、作った事無いので期待はやめてください」

実際合格出来るか出来ないかぐらいの代物で、寿司屋で出したら二度目はお客さん来ない程度のものなので。
そんな見よう見まねでも職人一歩手前な寿司を握れるのなんて、私の異常ハイスペックな従兄弟ぐらいのものだ。私は普通だから無理。
それにしても、皆が居ないのは魚を捕まえに行ったらしい。皆魚きれいに捌けるのか。確かにこの世界の人は元の世界よりサバイバルに長けてるもんな。凄いなぁ。
試験官さんが黙って私の作ったステーキ寿司を咀嚼するのを見守りながら、ぼーっとそんな事を考えた。

「…シャリの握りに力入れ過ぎ。肉はちょっと血生臭いしソースはもっと薄味でだけど塩気はもう少しあっていいわ。でも、まあ、ギリギリ合格にしてあげる。一品目で魚の寿司じゃないのが来るとは思ってなかったしね、面白い」

駄目かと思ったけど、なんと合格だった。

「ありがとうございます」

けどまた暇な時間になってしまった。走って多少疲れたから寝られたりしないかな。無理かな。
悩みながら顔を上げると、まだ試験官さんが私を見ていた。

「1番、名前は?」
「ブルーです」
「ブルー?ぴったりね。その目嫌でも印象に残るわ」

ですよね私もそう思います、と微笑みながら頷いた。この目、皆思わず見ちゃうから、ほとんどの人は簡単にPC転送出来ちゃうんだよね。

それにしても、どうしてこの人はさっきから、こんなにも私を警戒するような目で見て来るのか。
私は気づいていない風を装う。

結局他の受験者が帰って来て最初の寿司もどきが試験官さんに差し出されるまで、会話は交わされた。
最後まで、最初に聞き流した彼女の名前を聞き返しはしなかった。どうせ今だけの関係だ。この人とも。



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