頭を過った不明瞭過ぎる預言もどきを、私がわざわざ口にする事は無かった。
そうして話しているうちに一次試験終了と二次試験開始までの待機を言い渡されたので、私は黙ってキルア君の隣に腰を下ろそうとして、止まる。
「お姉さんちょっといいかな?」
一瞬マゼンタさんかと思ったけど、声もトーンも違うその声に持ち主の方を見る。
金髪の、穏やかな物腰に爽やかな笑顔の青年。その緑色の目は真っすぐに私の青い目を見ていた。感情の入り混じったようなその目に思わず何も答えず黙る。
「お久しぶりです」
と、突如金髪の青年は当たり前のようにそう言った。
「…は?」
「あ、ごめんつい。何でもない」
眉を下げた笑顔で手を横に振る金髪の青年に、これはまた変なのと私は関わっているのかと気分が落ちる。それとも本当に久しぶりでいつか仕事中にでも会っただろうか。
「自己紹介、した方がいいのかな?オレ、シャルナークって言います」
何でそんな、自己紹介をするのがおかしな事みたいな言い方?シャルナーク…うん、やっぱり聞き覚えは無いんだけど。
「ブルーです。あの…会った事ありましたっけ?」
「うーん…これはただのオレの推測だけど、今のブルーは本当にオレ達と会った事がないのかもしれない」
「はい?」
「一次試験前に話してたマゼンタと、ブルーは会った事ある?」
「…マゼンタさんの知り合いですか?無いですよ、初対面です」
「そっか、ならオレも無いでいいよ」
ならって何だ。また意味深な言い方を。
いやそもそも私はコミュ障人見知りなのであって、つまり何が言いたいって、もう要件だけ言って居なくなって欲しい。キルア君見てるだけで助けようって気配も見せてくれないし。
そんな私の願いがカミサマにでも届いたのか、シャルナークさんはついに本題を口にした。
「ねぇブルー、時の魔女って名前に聞き覚えは無い?」
時の、魔女?
魔女と言われたはずなのに、私がそれから思い浮かべた姿はその身にモノクロのみしか色素を宿していないような少年だった。
夢と現の狭間のような時、本当にこの世に存在して居るのか居ないのか、確か自分を配達人と名乗って消えた不思議な少年。
…いや、あの子が現実に存在していたとしても、どう考えてもやっぱり時の魔女の要素は零だよね。
「無いです」
「間あったけど」
「少し考え事を。でも時の魔女なんて、本当に知らないんですよ」
聞いた事も見た事も、確かに一度も無い。
「…まぁ、無いって答えは真実が何にしろ想定内だけど。じゃあオレ帰るよ」
「はぁ。…え、あの、帰る?」
「うん。オレもうハンター証持ってるもん。マゼンタなんてトンネルでもう帰っちゃったし、オレもこれ以上受ける意味無いから」
「は?マゼンタさんも帰った?え、これ以上ってなら何しに試験に、」
最初に話し掛けられた時と同じように、シャルナークさんは私の青い目をただただ真っすぐに見ていた。
「貴女に会いに。それから、貴女のその呪いを解く為に」
「…あれ?シャルナークさんは?キルア知ってる?」
「うわ、また時間飛ばしてるし。宣言通り帰っただろ。後、ちょっとオレの隣見ろ」
「ゴン君!わー、よく逆走したのに来られたね」
ゴン君がどうやってこの広い湿原から二次試験会場を突き止めたのかとキルアと二人で聞きながら、私はふとおかしい事に気付いた。
シャルナークってさっき私が口にした時、妙に口馴染みがあったのは何故だろう。