「いいの?」

絶で壁に寄りかかっていた長い茶髪のカツラをかぶっているシャルナークの所に戻れば、自分の両腕を組みながら不満そうに問われた。答えを要求していないらしいシャルナークは、そのまま続ける。

「オレ達は皆、あの人をヒーローと慕ってたけど…団長はそうじゃないだろ」
「ああ、慕った事なんて一度も無い」

ただ欲しかった。あの圧倒的な強さが。
それでいてそんなものは至極どうでも良さそうなぞんざいな扱い。曇った目。周りの何もかも自分さえ含めて無価値のゴミのように見ていた彼女は孤高で、何よりも美しく、オレの事なんて欠片も興味がなかった。
それが今はどうだ。何だあの抜け殻は。何だあの、まるでずっと幸せに生きて来た人間のような表情の変化は。世界で一番自分は不幸だとでも思っているような顔は何処に捨てた?
オレはそんなお前が欲しいんじゃない。

「話聞いてたけどさ、記憶無いんだね。それに歳もあの頃と同じぐらいだし…。うん、わかってる。該当する念を使える念能力者が居ないか調べておくよ」
「頼んだ」

きっとあの頃より今の彼女は幸せだろう。叶うかもわからない悲願に一生を捧げて、世界を恨んで、懸命でがむしゃらに生きていた時より…ずっと。空っぽに幸せそうだった。

「ねぇ…あの目、相変わらず綺麗だね」
「そうだな」

その意味に、言葉とは真逆に憂鬱そうな顔をしたシャルナークに、オレも別の意味で陰鬱な顔をした。

「目に呪われているようだ」

美は人を捕り殺す。
感情は人を縛り付ける。

今の自分をブルーと名乗り、青の衣服に護られるように包まれ、光の無い青眼で見る世界は、青いんだろう。
…そんなものは、近い日に容易く壊してやろう。

彼女はオレを憎むだろう。恨むだろう。殺すだろうか。
だがそんなものは、オレを殺さない選択をした昔のお前の判断ミスだ。過去は消せない。消させやしないさ。

残念だったな、略奪はオレの得意分野だ。



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