悲鳴と血飛沫が私とマゼンタさんの奇妙な空間を切り裂いた。
私が人生できっと最初で最後となるヒソカに感謝した瞬間である。
「可哀想に」
私は思わず哀れみを込めて呟いた。
会場内のピリピリした空気に興奮していたヒソカに、彼はきっと偶々ぶつかったんだろう。あんなとってつけたような理由で両腕切り落とされるとは。
「そう?ハンター試験に来たんだからそれなりの覚悟はしておかなきゃならないんじゃない?」
「あんな変態が居るなんて誰も予想出来ません」
「確かにな」
マゼンタさんは笑って肩を竦めた。
流石にあんな狂人見たらちょっとはこの人も動揺するかなと思ったのに、余裕そうだ。よっぽど自分の力に自信があるのか。
「でも確か、その変態とブルーは話してたよね?」
「…まぁ。不本意ながら」
気まずく思いながらも、あの時既に会場に居たのかとさりげなくマゼンタさんの全身をチェックして見たけど、見える位置に番号札は無かった。確かに何かの時の為にこの人は隠しそうだ。
少なくともキルア君の99より前だとは思うけど、そんなに前から見られていたのかと思うと居心地悪い。
「あの釘男とも知り合いみたいだったし」
「彼とは仕事を共にした事があるだけですので」
イルミ君が不気味な変装をする事で私が迷惑を被っている。試験が終わったら一言物申させて頂きたい。聞きそうに無いけど。
ふーん、とマゼンタさんは何か曖昧な、私には察し切れない感情を滲ませた目で呟く。それはたぶん、負の感情だった。退屈とか、不満とか、きっとそういうの。
「最初は嬉しかったけど、今のお前は別人だな」
「……え?」
今度は明確に冷たい目をしてマゼンタさんは歩いて行った。それに驚くのも束の間、ハンター試験始まりのベルが鳴り響く。
気づけば彼の姿は何処にも捕らえられなかった。
今の、とは何だ。私は今まで一度もアナタに会った事なんてない。
勝手に失望されても困る。
私はそう苛立ちを感じると同時に、安堵していた。目的のわからない強者の接近とは危険なものだ。私への興味が失せてくれたんならそれがいい。
気まぐれな人だった。そう流そう。
都合の良い思い込みは、私の得意分野だ。