同じクラスの、学校中の人気者。
教室に入って来ただけで教室内をどこか活気づける彼の事が、私は別に嫌いじゃない。格好良いとも思う。

「勘、今日来るの遅いな。寝坊?女?」
「両方って言ったら?」
「うわ、モテ自慢うぜぇ!!」
「そっちから言ったんだろ?嘘だよ」

軽く笑う彼に、思う。本当に嘘なのかよ。
視線を向ける事はない。視線が合ったら、たぶんだけど彼は話し掛けて来る部類の人だと思うから、視線の意味を問われても目立つからとしか答えられない私は面倒事、御免だ。

「政木、体調でも悪い?」
「え?ううん、別に。どうして?」
「いや、なんかぼんやりしてたから」

隣の席の山本に話し掛けられた。ぼんやりねぇ、別にいいじゃん。してても。
山本の事は嫌いではないけど、好きじゃないから何と無く好意を感じる事に辟易する。応える気がないんだから、ある程度以上に優しくしてあげる気はない。

「兵助、おはよう」
「ん。おはよう…って、勘ちゃんそれ、」

人気者の笑い声に、視線がまた一層彼に注目するのを肌で感じながら、私はスケジュール帳に目を通す。明日のバイトは…18時からか。ちょっと時間あるな。何して時間潰そう。

「じゃん!俺も遂に豆乳デビュー!」
「…紅茶味」
「兵助、目で邪道って訴えるのやめない?眼鏡越しの目力凄いんだけど」

私がいつも行くカフェで時間潰せばいいか、と結局普段通りの結論に至っていると、教室に担任が入って来た。
人気者の彼以外は皆、席に着いている。

「尾浜、早く席つけー」
「はーい、ごめんなさーい」

まったく申し訳なさを感じない、実際微塵も無いんだろう軽い言葉と共に人気者の彼も席に着いた。私の斜め前で、山本の前だ。

授業の間、見たくなくてもちらちらと見えてしまう位置に居る彼の顔は、なんとなく普段より機嫌が良いように見えた。


四時間目の、人気者の彼と久々知君に聞いてるこっちが恥ずかしい程の歓声が飛ぶ体育が終わって昼休みになり、私が教室に戻り机にお弁当箱を広げていると、人気者の彼はいつも通り席を立ち、久々知君の所まで歩いて行った。

「兵助、俺幼馴染のとこ行って来る!戻ってからご飯食べるから!」
「…ああ、だから豆乳、紅茶味だったんだな」
「…さぁ?」

そんな会話と共に、人気者の彼は満面の笑みで豆乳を片手に持ち上機嫌で教室を出て行った。

私は、教室を見渡せばお昼ご飯なのに一緒に飲むのが豆乳という、それ合うの?と私からすれば甚だ疑問なクラスのブームを不思議に思いながらも、普通に緑茶を一口飲んだ。
…落ち着かない。


突然の、教室中に響く打撃音に驚いて、振り返った。
そこにはもう昼休みも終わろうという時間、やっと帰って来たらしい人気者の彼が、机を蹴飛ばしていた。私の隣の席の。

「え、えぇ…と、尾浜、俺お前に何か、した?」
「ううん、ごめん俺の勇気とか心とか色んなものを踏みにじりやがってあの鈍感バカちくしょーって気持ちを足に込めて全力で八つ当たりしただけ……すー、はー。ごめんね、山本。政木さんも。驚いたでしょ?」
「え、あー…なんかお前も大変なんだな。いいよ許すよ」

私が呆けてる間に話が進んでいる。そしてクラス中の視線が何故か私に集まっている。

「す、好きな人と何かあったんなら仕方ないよね!私は気にしてな、」

…待て。私今テンパって何口走った…?
恐る恐る顔を上げる。人気者の彼が、笑顔を引き攣らせて私を見ていた。
あ、やらかした。せっかく誰にも言わず気づいてないふりで卒業までやり過ごそうと思ってたのに。

「俺に好きな人?あはは、政木面白い事言うね」

口調も笑い声もいつも通り軽くて明るいけど、顔を近づけてくる人気者の彼の目は微塵も笑っていない。私も笑えない。

「俺、そんな一途な奴だと思われてたなんて本当、面白いなぁ」

人気者の彼は、実際私が誤解で言ったからこんな事を言うんじゃない。真実で、動揺して、その真実を誤魔化さなければならないから…殺されはしない、だろうけど。

気持ち踏みにじられたって言ってたよね…今なら自棄になって、間違いを犯しかねないんじゃないの…?ああもう、私の馬鹿。洩らすにしてもタイミング最悪。

一瞬の間に、人気者の彼の顔が急激に近づいて来た。
触れ合う唇。間近に見える、端整な顔とやっぱり笑っていない目。教室内に木霊する悲鳴。

私はそれらをどこか非現実的なものとして見ながら、終わらない口付けに机と椅子ごと身を引く。唇が離れた瞬間、小さな声で人気者の彼が笑いながら囁いた。

「政木さん、付き合おうか」

疑問符は聞き取れなかった。

私にとって人気者の彼こと、尾浜勘右衛門とは、学校中の人気者で、ちゃらくて、とある日の放課後廊下で誰かの後ろ姿に好きだと呟く程好きな人が居て、なのに女癖は悪くて、私みたいなその辺の女なんて自分の好きな人を誤魔化す為の期間限定オモチャとして見られちゃう程偏愛冷酷最低な男で、だけどそれでもわからないけど、どうしようもなく好きな人だった。

「は、い…」

この関係に未来はない。



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