ヒットマンのせいで結局早くに学校に着いてしまった私は、校門の前でどうしたものかと立ち往生した。
いくら何でも、早く来すぎだ。まだ5時とは…委員長は早く来られるだろうが、少なくとも1時間は待つだろう。戦闘訓練をしようにも、制服以外持ってきていないしな…。
「何してんの」
私は戦慄した。
瞬時に振り返れば、委員長がトンファーを取り出す。
「委員長!風紀委員です!私風紀委員です!」
「うん、わかってるけど」
委員長は歯切れ悪く言って、何故か渋りながらもトンファーをしまってくださった。
それでもまだ訝しげに私を見る委員長にハッとする。
「すみません、早く来すぎただけです…!」
「そう」
学校に何かしようとしていると間違われては困ると必死に言えば、委員長はあっさりと納得してくださった。
しまった、会話が続かない。委員長が私をまだ見ていらっしゃるのだから、何か言うべきなんだろうけど、私は何を言えばいい?友好は基本的に面倒だと過ごしてきたからな…対人スキルなんて皆無だ。ここで気の利いた話でもできれば良かったのに。
「じゃあ暇だよね?ちょっと来て」
「え?は、はい…!」
先にスタスタと早足に校内へと歩き出してしまわれた委員長に、私も小走りでその後を追う。
着いた場所は応接室だった。委員長に続いて入ったはいいものの、勝手にソファーに腰掛けるわけにもいかず、応接室の前で棒立ちになり途方に暮れた。委員長は委員長でいつもの席につき書類に目を通されている。
暇かどうか聞かれたということは、委員長は私に用がお有りなのだろう。何だろう、勝手にコーヒーや紅茶を淹れるのもはばかられるし、だが指示がなければ動けないと思われるのも…
「座れば?」
「!は、はい!失礼します!」
呆れたような視線に、直ぐ様応接室のドアを閉めソファーに腰を下ろす。嫌な汗が流れ始めた。どうしよう、使えない奴だと思われてしまったかもしれない。
席を立ち、近づいてくる委員長にトンファーで殴られると思い、自然と拳に力を込める。だって避けることは許されていない。
予想に反して、委員長によってバサリと目の前の机に落とされた紙の束に肩を跳ねらせ、それから困惑した視線を委員長に送る。
「委員長…これは?」
「風紀委員の仕事。他のよりは君、デスクワークできそうだし。苦手?」
「い、いえ!そんなことは!」
「ふーん、じゃあよろしく」
「はい!」
私は即座にボールペンを手に持ち、与えられた書類に書き込み始めた。
それからどれぐらいの時間が過ぎたか、ふいに委員長が口を開かれた。
「君、名前何だっけ」
「はい、華宮夜です」
「華宮…君、前に僕と会ったことある?」
何かを思い出すように目を細めた委員長に、私も一年前の初めて委員長と出会った瞬間を思い出し、一度目を閉じた。
「いえ」
「…ふーん」
笑顔で否定した私に、委員長は気づかれたのか気づかれていないのか、それだけ言ってまた口を閉じられた。
「委員長、終わりました」
「そう。じゃあ校門行って。もう時間だから。後、これからも5時半には応接室来て仕事してね」
「わかりました!」
私は校門に向かうべくすぐに机の上を片付け立ち上がった。
応接室から出るため歩く私の背中に視線が突き刺さるのを感じながら、私は失礼しますと応接室を出た。