外部からの音に持っていた筆を足下に落とす。転がった筆が墨で床を汚す。

「勝手にどうぞ」

依頼だろうか。この家のドアがノックされるなんて、何月ぶりか。今日はどんな無茶な案件を持って来たのか。まぁ、病気か死者か、意識不明でなければたいていはどうにかなる。
ドアに書かれた念字は外から中には発動しないゆえに、ドアは簡単に開いた。上体だけで振り返れば、見覚えのある顔。

「お邪魔しッ?!」

柔和な笑顔から目を見開きドアを開いたまま声を引きつらせた少年の視線を辿り、完全に少年に背を向けた私はまだ乾いていない墨に指を這わせその文に向けて笑む。

「そんなに驚くかい?」
「えっと…あはは」

誤魔化し切れていない動揺した乾いた笑い声を上げた少年に、私は少年を見もせず落とした筆を拾いテーブルの上に置いた。

「それで、今日はどうした?」
「あ、昨日のお礼に!」
「ふーん」

口元に弧を描き、私は赤いワンピースを翻す。
木の床に赤いパンプスの10cmヒール音を響かせながら、私は少年の目前まで歩く。少年はびくりと肩を震わせ、逃げるように片足を半歩後ろに下げた。

「少年、名前は?」
「…不破雷蔵」
「そうか」

少年が瞬きもせず呆気に取られて私を見る中、私は冷たく笑う。
目でも追い切れなかったか。何故自分が今地面に倒れているのか、私が上に乗っているのか、首元に突きつけているベンズナイフはこの世界で私以外治療不可能だろう強力な毒が塗られているのだけどそれを考えている暇はあるかな?

「さて、不破君の名を語る君。早めに弁解の言葉を吐く事をお勧めするよ」

私を騙そうなんて、いい度胸だ。

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