そういえば、父上には僕は人の人生を狂わせる天才だと言われたな。
だから家族と離れられたのは良かったな、と思うほど愛着なんて感じていないのだけど。過去は過去だし。
「珍しいな」
裸にずぶ濡れで風呂の前のマットに座り込んでいた僕に、何時の間に部屋に来ていたのかルシウスさんが僕を見ながら言われた。
タオルも持ってきていなかった僕は、髪から雫を滴らせながらルシウスさんを見上げる。
僕、何で家族の事なんて思いだしたのかなぁ…過去は振り返らない主義なのに。
それに、自分から風呂に入るなんて天変地異ものだ。何で入ったんだったかな…あ。
「頭冷やそうと思って」
ルシウスさんが僕のびちゃびちゃな頭に手を伸ばし、髪に触れた。
「…水か」
「風邪はたぶん引かないしいいかと思いまして」
でも案の定面倒臭いので拭いてくださると嬉しいなぁと期待のこもった目でルシウスさんを見れば、ルシウスさんは呆れた顔をしながらもタオルを持ってきてくださった。
わしゃわしゃと髪の雫を拭われる。僕は微かに俯きながら、されるがままに目を閉じる。
コレって、僕が女だったからなりアレな状況?
たまに肌に触れるルシウスさんの手は、意外にも暖かい。
「一つ聞いてもいいか?」
「はい」
ルシウスさんは手を止め、たぶん僕の顔を見た。僕は俯いたまま質問を待つ。
雫はもう落ちて来なかった。
「セピアは、食事以外に好きなものはあるのか?」
聞きますか。
口に出して、それを答えさせますか。
ええ、別に僕は構いませんよ。何十何百何億人の人生狂わせたって、それでも僕は流されるだけですから。
「ルシウスさんは好きですよ?」
「そうか…出来れば固有名詞でない物を言ってもらえるか?」
僕は顔を上げ、人形になってから初めての妖艶な微笑みを浮かべてルシウスさんを見た。
「僕は僕を好きな人が好きです」
以前と違い今度は口に出して言ったそれに、ルシウスさんと僕の影が重なり、僕の格好から言って雪崩れ込むようにそういう行為が行われるのは、自然の摂理だった。