好奇心で自分の指をちぎってみる僕って常識的に考えて何だかなーと思う。
そして血が出ない癖に中はちゃんと赤く作ってある事に、この人形の作者のリアリティーの追求具合に感心したり、痛覚が無いことに微妙な気分になりつつも血が出ないんだから問題ないかとちぎった指をメロンソーダの入ったコップの横に置いてちぎってない方の手でパイの実を食べた。
「入るぞ」
「どうぞ」
僕の毎日は、ルシウスさんとマグル狩りとパイの実とメロンソーダと、後たまに闇の帝王様への謁見で構成されている。
「…テーブルにグロい物を置くな」
「あ、気分害しました?すみません」
指をつまんでゴミ箱にシュートしようとした僕に、ルシウスさんが僕の手を掴んで止めた。顔を見ると随分引き攣っている。
「外しませんよ?」
「…縫ってやるから黙って手を出せ」
「ありがとうございます」
魔法が通じない僕のために針と糸で器用に縫ってくださっているとルシウスさんの顔を、やっぱり綺麗な顔だなぁ、とぼんやり見つめるだけの時間が過ぎた。僕にはバイ菌入るとかそういう概念は無いだろうからこれでいいと思います。
ずっと見ていたせいか、縫い終わったルシウスさんは僕の手を掴んだまま僕の顔を見返して来られた。
…。
「お前の顔を見ると人間じゃないと実感するよ」
「…そうですか」
そうですね、それは僕もそう思います。身の毛のよだつ程綺麗な姿は、いっそ怖いほどに。
「今日って、僕お仕事入ってませんよね?」
「ああ」
「じゃあ夜まで寝ます。そんな気分なので」
「そうか…では私は帰ろうかな」
「そうしてください。また明日」
「ああ、また明日」
ドアが閉まる音が聞こえてから、ルシウスさんの足音が遠ざかり角を曲がるまで待つ。耳は良い。目も良い。鼻も良い。人形になっても訓練した感覚は消えない。
「…でもルシウスさん、頭良いからな」
僕の様子がおかしいの気付かれただろうな。僕、会話の途中で沈黙すること滅多にないし、ルシウスさんが居る時に寝ようとしたことないし、ましてや常時暇な僕がルシウスさんを追い出したことなんてあるわけないし。
…いや、だって、さっき…一瞬変な空気、流れましたよね?
気のせいじゃなくて。