目出度く両想いのハッピーエンドを迎えた僕とルシウスさんは、いつも通り僕の部屋にて僕はベッドの上でカスを零さないよう綺麗にパイの実をさくさくと食べ、ルシウスさんは…あれ、何でそんな呆れた顔で僕を見ていらっしゃる?
「…僕、ルシウスさんに何かしました?」
「むしろしない事を怪訝に思っているところだ」
しない事?心情察するのとか面倒臭いので回りくどいのやめてさくっと言ってくださらないかな…こう、パイの実みたいに。
「はぁ…」
「僕の顔を見てため息とは失礼な」
こんなにも今の僕の顔は綺麗だと言うのに。綺麗なものはもっと大切にするべきですよ。僕も可愛い弟達の事はそれなりに愛でていましたし。
「私はこれでも既婚者な訳だが」
「知ってますよ?そんなオーラも纏ってますよね」
「だがお前を好きになった」
「それも聞きましたけど」
「妻との関係やら、これからどうするつもりかやら、今後のお前自身の処遇やら…何か思わないのか?」
ああ、成る程。ちょっと具体的な将来の話ってやつですか…うーん、まぁ、
「わりとどうでもいいかなって」
体裁とか、普通色々あるもんですし奥さんとは別れなくてもいいんじゃないですかね?僕、顔も名前も知らない人相手に罪悪感抱かないんで。両方知ってても抱きませんけど。
お互いがお互いを好きならそれでいいのでは?
「…ああ、お前みたいなのを好きになった私が悪いな。わかった、勝手にどうにかしておく」
「何ですか、その諦めてる感じ」
勝手にどうにかしてくれる分には万々歳ですけど。
「まぁ、好きになった方の負けですもんね。ルシウスさん、最初から僕に負けてますもんね」
「その通りだが自分で言うな」
「僕もルシウスさんには負けましたけどね」
微かに笑いながら言った僕に、ルシウスさんは僕を驚いた顔で見られた。
「僕、負けたの初めてなんですよね。ルシウスさんこそ責任取ってくださいね」
愛だの恋だの、そんなのは道具に過ぎなくて絶対的に向けられるものでしかなかったんだけどなぁ。
ルシウスさんに抱き締められ、僕はその肩に顔を埋めながら目を閉じる。
この世界に来てから、僕は今まで抑制されて来た事を全部してきた。だけどそれでも、僕が人形なのは前の世界から変わらなくて。
人形は、恋なんてしないから。つまり今の僕は――
心の中の、何かが埋まった気がした。