たいして可愛くもない癖に、という言葉がお腹いっぱいな私は委員会が終わった瞬間教室から出た。あー外の空気おいしい。
まぁ、たいして可愛くもないのは事実だけど悪感情を向けられ続けるというのも精神的にくるものがあるんだ。
てか、疲れた。
まぁ苛立たれようが、私がする事なんてきらきら君と一緒に淡々と作業をこなすだけだ。
今日は二人一組の仕事第一回目。でも二人きりだからと言って、私みたいな一般女子ときらきら君に何かあるはずがない。
そんな言い訳もとい正論も、恋する乙女の前では無意味なんだから、世の中世知辛いよね。
「じゃあ…俺が鉢運ぶから水やり頼める?」
きらきら君が事務的に口を開く。…流されるべきだ。平穏に中学を卒業したいなら。
「いえ、確かに男より力はありませんがそれは不公平かと。私も運びます」
…はぁ。何で口出すかなぁ自分。
でも鉢ぐらい私も運べないことないし、かさばるから一気に運べないし、二人でやって最後に水撒いた方が公平だと思うんだよ。
「…俺、そんなに力無いように見える?」
ただきらきら君はそうは考えなかったらしく、顔を引きつらせている。
あー…これ言ったら面倒になりそうだから言いたくなかったんだけどなぁ。
「知ってるよ、テニス部のレギュラーなんでしょ?放課後またあのハードな部活するんなら今少しぐらい楽しても良いんじゃない?」
「それこそ君に関係ないと思うけど」
…。
うん、私この人と合わないかも。きらきら君が女を嫌いかもとか置いておいても…彼には大和撫子な一歩後ろに下がって男を立てる人が似合うんじゃないかな。
「幸村君に色々されると、ちょっと…その、私も面倒でさ、申し訳ないんだけど折れてもらえないかな?」
「あ…ごめん」
…こうなる予感したから、言いたくなかったんだよね。でも私も保身に走りたいんですよ。
きらきら君って、たぶん普通に性格良い普通の子なんだろうね、中身は。まぁだからどうってわけじゃないけど。
反論の無くなった所で二人で鉢を運び始めた。無言での作業は嫌いじゃない。
「あの、さ」
「…うん、何?」
まぁ、さっきから何か言いたげなのはわかってたけどさ…。
「ごめんね」
「謝るのは一回でいいよ」
「さっきの事じゃなくて…と言うか、それも含めてこうなる原因作っちゃってごめんね。俺以外とペア作ろうとしてたのに、強引に」
あー…いい人だ。たぶん、ずっと気にしていたんだろう。あそこで私捕まえなきゃきらきら君は大変な事態になってたろうから仕方ない気するんだけどなぁ。
でも、確かにそんな事情本来私には関係なくて。
「いや、イケメンに生まれたのは幸村君のせいじゃないし、今回はいいよ。人助けだと思って付き合う」
私の本心は、これに尽きるわけで。
イケメンなんて、目の保養ってだけで恋愛対象にならないとかではないけど、一般的な顔立ちの人と私の中で立ち位置は変わらない。だから、あくまで人助け程度にしか考えてないんだ。
幸村君はそんな私の考え方に驚いたのか、作業をしながらではあるけどじっと此方を見てくる。
そうして、約10分が経過し鉢を全て運び終わったところでようやく幸村君は口を開いた。
「…凄く失礼な事聞いていい?」
「え、何?」
恐る恐る、此方を窺うように聞いてくる幸村君に、質問の内容が予測出来ず不思議に思いながらも促す。
「名前教えてもらえないかな?」
初めて見た幸村君の笑顔があまりにも綺麗で、私はいつの間にか釣られて笑いながら自分の名前を口に出した。
きっと、この瞬間から私は恋に落ちていた。