「ぅああぁああああぁあぁぁあああ!!先輩っ!やだ!やだ何で?!うっ…ぅえぁ」

僕は半ば呆然と、先輩を抱き締めたまま泣きながら吐く彦四郎をじっと見るしか出来なかった。
それしか出来ない程、酷い有り様だった。その死体は、長く水にさらされていたせいか…とにかく、ひどくて、ボロボロに切り裂かれたんだろう傷口と、水を含んだ身体とそれから…それから…こんな凄惨な死体、見たことなくて、僕は彦四郎と先輩――だった塊を見ているしか出来なかった。

「ひっ…っは、先輩は、何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない何もしてない

…許さない」

彦四郎は、止めどなく涙を流しながら先輩に口づけた。神聖な儀式のように、そのあまりに哀しい光景は僕の目に焼きついた。

「庄ちゃん、埋めるの…手伝ってくれる?」
「……うん」


彦四郎は、その後壊れた。
死ぬ時は笑いながら死んだ。どういう意味で笑っていたかは知らない。





「あれ、庄ちゃん?…久しぶり!」

生まれ変わって尚、何故か前世の記憶を持っていた僕は、ある日突然、偶然にも彦四郎と再会した。
二度と会うことは無いと思っていた彼を視界に映した瞬間、僕は色んな――例えば彼の死に様だとか彼女の死体だとか彼の惨い復讐だとか――前世の記憶が頭を駆け巡り、吐き気がして、口を抑えて半歩後ずさった。

「ぁ…」
「ん?…ああ、言っておくけど、僕庄ちゃんのこと恨んでないよ?僕が嫌い恨み憎み一生二生何度巡っても憎悪し続けるのはあの人達だけ」

鈍く暗い黒い目の光に、僕は辛うじて頷いた。先輩達は好きだけど、一度彦四郎の復讐を見た僕には彼等を口でさえ庇えない。
僕が固まっていると、後ろから誰かが彦四郎に声を掛けた。僕はゆっくりと振り返る。

「彦にゃん、何してんのー?…お、もしや友達?」
「うん、黒木庄左衛門っていうんだ。庄ちゃんは…この人誰かわかるよ、ね?」

解らないはずがない。今の性別はどうやら男のようだけどそれは瓜二つで――ああ、そうだった。先輩はあんな顔じゃない。こんな、顔だった。

「今は、赤羽根楽って言うんだ。それに同級生。仲良くしてね?」
「彦にゃんは俺の親か?!」

下の名前だけ変わったらしい赤羽根先輩は、僕のことなんかまるで知らない別人みたいな態度だった。

「よろしく」

ごめんなさい、次はちゃんと護ります。
貴女が今、幸せそうで――良かった。

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