氷帝の学食のメニューは、なんかヤバい。凄すぎてもうヤバい。
そもそも中学校で学食が入ってるだけで俺には未知の領域なのに、クオリティーもお値段も中学生が買うものじゃない。絶対違う。リーズナブルでまあまあなお味はきっと氷帝には求めてはいけないんだろう。
「朔人、決まったか?」
「ううう…待ってー」
「俺等先に頼んで席とっててEー?」
「お願いします」
上の空でお願いし、俺は安さをとってBランチにするか食べたいものをとってAランチにするかで真剣に悩んでいた。
意味もなく注文所の辺りを徘徊するぐらい悩んでいた。それだけじゃあき足らず食事場の辺りまで無駄に歩き回るぐらい悩んでいた。
するとビーフストロガノフが俺の顔面目掛けて降ってきた。とりあえず食べる。よし、ビーフストロノガノフは食えたからBランチにしよう。
「わ、悪ぃ…」
さて、何で俺はこんな公衆の面前で跡部に頭を下げられているのだろう。
…なんて、わかってるけどねー。
食べたかったからってそんな都合良く上からビーフストロノガノフが降ってくるわけないし、降ってきたのビーフストロノガノフだけじゃなかったし、俺全身ドロドロのビショビショだし。
「完全に俺の不注意だ、すまない。テニス部のシャワー室を使ってくれ。制服は新しく俺が用意する」
…いくら俺が跡部を苦手って言っても、こんな注目集めてるし相手も本気で謝ってるのに、許さなーい!とか言えねぇよ。
それに跡部のこんな慌てた顔見れたのって凄いことじゃねぇか?
「俺も上の空だったし、いいよ。シャワー室と替えの制服だけ頼むな。クリーニング済んだら返すから」
「いや、全面的に俺と…アイツが悪い。もらってくれ」
跡部キャラ違くね?とも思ったが、それより跡部の言ったアイツとやらが気になり、俺は跡部の視線の先を追った。目が合う。舌を出される。
「てへっ!…じゃねぇんだよジロー!お前跡部見習えよ!そうだよ何かおかしいと思ったんだよ…っ!どうせこうなったの絶対跡部よりお前が悪いんだろ!」
「ごめんね朔人ー!俺もビーフストロノガノフ食べたかったんだCー」
どんな理由だ。しかも誠意がまるで伝わってこない。
俺は引きつり笑顔でジローを見てから、跡部に視線を移した。
「なんとなく状況わかった。跡部本当気にしないで。後でジロー殴るから」
「Aー?!」
「Aじゃねぇんだよ、Aじゃ…!ごめん跡部、シャワー室借りたいから案内…はいいや。岳人ー!案内してー!」
「おう」
ジローの横から早足に歩いてきてくれた岳人にどんな顔をしていいかわからず、へらっと笑う。
「朔人も災難だったな」
「人為的なものだけどな。ジローお前後で一発マジで殴るから覚悟しとけよ?」
「ごめんってばー!」
悲痛な声で叫ぶ小悪魔羊野郎を軽く睨んでから、もう一度跡部に向き直る。またも跡部にしては珍しいというか、初めて見たぽかんとした顔に驚く。
「替えの制服もやっぱりいいや。午後ジャージで過ごすし、クリーニングは責任とってジローにやってもらうから。跡部は色々忙しいだろうし、この件は忘れてくれていいから」
笑顔で何事もなかったかのように言って、とても何事もなかったとは思えない悲惨な状態だろう俺は跡部に背を向けた。
さて、さっさと岳人にテニス部の部室まで案内してもらおう。そろそろ風邪をひく。