…何で今俺の目の前に羊が居る?え、何で俺の机の前に、しゃがみこんだテンション高い羊が?
「お前がムースポッキーくれた奴?俺さ、あの時凄ぇムースポッキー食べたくてさ!ありがとー!」
「寝言で言うぐらいだから、そりゃそうだろうとも」
羊…否、芥川は俺の両手をひっ掴み、上下にぶんぶんと振った。俺は無気力にされるがままになっていた。
俺は最初、向日が帰ってきてからもどうにか誤魔化そうと思っていた。クラスメートの痛い視線に二秒で断念したわけだが。
そうして仕方なく向日に打ち明けるや否や、向日は怒った。まぁ、明らかに誤魔化してたから当然だな。
だが、向日は次の瞬間には教室を出て行き、そんなに怒ったのかとはらはらしていたら何故か芥川を引き連れて戻ってきて…冒頭に戻る。
あー…こう見ると、確かに羊=ジローだな。考えてみれば、俺羊の顔見たことないじゃん。芥川、常にうつ伏せで寝てたし。
「しかも岳人と友達なんだよな?俺とも友達になって欲しいCー!」
「え」
漫画とかじゃありがちな急展開に俺は頬を引き攣らせた。
芥川を連れて来やがった向日に視線で助けを求める。
「いいんじゃねぇの?」
向日は投げやりに言い、また傍観の姿勢に戻った。
違う!違ぇよ!んな友達になるかならないかの意見求める視線じゃねぇから!俺はどうにかして芥川と友達になるこの空気を壊してほしかったんだよ!
「名前は?」
「え、日達朔人」
「俺、芥川慈朗!ジローでいいCー!よろしくなっ!」
芥川は小さな子どものような、無邪気で明るい笑顔で手を差し出してきた。
「…よろ、しく」
こんなん、振り払えるわけないだろうが。
俺はジローの手を握り返しながら諦め悪く苦笑した。