他のスリザリン生より随分遅く寮に来たリドルは、私を視界に映すや否や早足に近寄ってきて、なんと私の首の後ろを摘まみ上げた。
何て奴だ、動物虐待か貴様。
「…」
「…にゃー」
実際は無垢じゃないが、動物の綺麗な目で見つめられるというのは、人には中々堪えるものがあるはずだ。私は気にならないが。
案の定、リドルはため息を吐きながら首根っこから手を離した。私は華麗に着地する。
「蛇の目」
リドルが合い言葉を言い、寮への道が開けた。リドルに続き、私も躊躇せず中に入る。
そうか、合い言葉は蛇の目か。後々の為覚えておこう。
「…猫、今からホグワーツでの僕の部屋に行くから、覚えろ」
「にゃ」
はいはい、わかってるよ。
リドルの後ろを歩きながら、一際睨んでくる女子生徒をピンポイントで振り返る。案の定、びくりと肩を跳ねらせた負け犬に、私は嘲るように一鳴きした。
「…何してるの」
「にー」
弱い者虐め。
当然通じるはずもなく、リドルは眉間に皺を寄せながらまた歩き出した。
「此処。…覚えた?」
「なー」
任せろ。記憶力はいい方だ。
私の返事に満足したらしく、リドルは少し機嫌を直して中に入って行った。私もリドルの部屋に入り、その内装にはたと気づく。
…そうか、リドルも普通の生徒だったな。一人部屋ではないか。三人部屋…残りのメンバーが気になるな。オリオンは同学年では無さそうだし。
「僕の同室はエバン・ロジエールとアルファード・ブラック。エバンはそのうち僕の部下になるから心配要らないけど、ブラックの奴は変人だから気を付けろよ。…何処まで通じてるか知らないけど」
安心しろ、全て通じている。
にしてもリドル、お前その歳で部下がいるのか。…いや、私も十になる前には居たか。
「そうだ…そういえば、オリオンにお前の名前が猫は無いだろうと言われた」
ああ…私とリドルがそれでいいんだから、気にしなくてもいいと思うが。
だがオリオンがか。アイツ、意外に常識があるな。
「お前は頭がいい」
「にゃあ」
中身は人間だからな、当然だ。
「だから…名前はあまりつけたくないんだけど…一々突っ込まれるのもな。どうしようか」
ベッドに座って考え込み始めたリドルに、私は少し考えた後その肩に飛び乗った。
リドルが驚いているうちに、自分の顔をリドルの耳の後ろの辺りに持っていき素早く口を動かす。
「リーラ」
「…え?」
言うだけ言って、颯爽と跳び下りた。リーラは私の人間だった頃の本名だ。
じっと私を見てくるリドルに、私は猫らしく毛ずくろいをしながらとぼけるように視線を返した。
「にゃー」
「…リーラ、か。お前の名前、これでいいか」
「みゃん」
そうと決まれば、早く私に飯を寄越せ。
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