ホグワーツが長期休暇に入った。つまりはそれは、学生であろうとも自由に動き回れる時間が増えるという事で、さらに言えば闇の活動もしやすいという事だ。
「じゃ、リーラ行ってきます」
「にゃーん」
リドルを見送って数分後、私も人の姿で同じ目的地に向かった。
誰にも見つからないようにする事は、造作もなかった。木の上で息を押し殺す。特にオリオンは何故か人型の私に恋しているようなので、見つかるわけにはいかないしな。
エバンの作る不要な程の血の海と相手の叫びに口元を引きつらせつつ、見守った。
こういう大規模な活動の時は付いて行くのが当たり前になっていた。
影に隠れながらリドルの、私からすればまだ拙い動きを見ながら、でも美しいなと笑む。未完成でも美しい。それが人の命を奪う動きでも、美しい。赤い瞳と緑の光線がクリスマスのイルミネーションを彷彿とさせた。死の聖夜。
前世、私は世界で一番愛した男に殺されそれを憎み恨んだ。なのに今は、ああどうかしている。
今生の終わりは、その美しい緑と赤を目に焼き付けながらお前に殺されたい。なんて。
「恋に似ている」
うっとりとただただリドルを見つめながら、この感情は何だろうと考えた。母性?愛?執着?依存?それともやっぱり、恋?
でも、答えは出さなくていいよな。
ふわり木の上から降り立った私に、視線が集中する。
「死の呪文じゃなかったからいいものを、気を抜くなよ」
リドルに飛ばされた武装解除呪文を無言呪文のアバダケタブラで打ち消し押し返し命を奪って、背中に振り返った。
殺意さえ心地良いのは初めてだ。
「…前に部下を助けたらしい女か。何者だ」
冷たい赤に思わず目を瞬いた。
そういえば、私は最初からリドルの敵意に触れたことはない。そうか、普段こんな目でリドルは人間を映しているのか。猫(私)とは、大違い。私に嫉妬する女が居るのも頷ける。
にしても、ここで愛の奇跡のように私を猫と同一だと気づかれてもあのキザなサラザールならともかくリドルにはキャラじゃないだろと不振に思うので、この反応でむしろほっとした。
「答える気は無いと」
「ん?ああ、悪い。少し考え事をしていただけだ」
ローブに隠れて見えないはずなんだが、今まで一緒に過ごして来た経験上、今リドルはこめかみ引きつらせただろうなと空気だけでわかった。
「ただ、趣味でお前に時折助太刀しているだけだ。私の事は気にするな」
通りすがりというにはこれからも危ない時は悪側のヒーローさながら登場しようと思っているので、曖昧に誤魔化した。死にそうになったら得体の知れない私に少しだけ期待するぐらいならいい。私はお前の友人で、まぁ遊軍のようなものだ。
もちろん納得してくれるわけもないリドルから追求の言葉を掛けられる前に、姿眩ましをし、それから走ってその場を離れ猫に戻った。
上手い言い訳を考えるのはどうも苦手だ。躱すだけでも疲れる。
そういうのはいつも他の人がやってくれていたから。はぁ。
でも不思議と気分は高揚していた。
_