「どう、して、」
「サラは、生まれ変わりを信じるか?」
「生まれ変わり…?そんな馬鹿な、今の君は私の記憶の中の君と寸分違わない…!」
「変化魔法だ。元の姿だとちょっと特殊過ぎて…再会の雰囲気が出ない」
冗談めかして笑った私に、サラは動揺を落ち着けるように紅茶を一口飲んだ。
ああ、そういえばそれは元々私の癖だった気がする。前世でも私はいつもそうしていた。それに、いつの間にか私の口調はサラと似たものになっていたんだな。
近過ぎて、あの頃は気づかなかったよ。
「まぁ、立ち話もなんだ。座れ」
「いやすぐ帰るから、いい」
「…そうか」
断った私にサラは少し曇った顔をした。やっぱり座ると言ってしまいそうな自分を叱咤して、座っているサラの目を真っ直ぐに見る。
「サラ、私はお前に殺された時絶望と怒りを感じた。生まれ変わってすぐも、どうしてあんな男を信じたのかと過去の自分を恥じた」
「……ああ」
「弁解しないのか。…お前らしいな」
「後悔をしている訳じゃないんだ。ただ、生まれ変わりがあるのなら今度こそは永遠にお前の隣に居たかったんだがな」
「はは、そりゃ微妙に叶ってるかもな」
叶っている?と不思議そうな顔をするサラには答えず、私はただあの最期の瞬間を想い起こした。
過去の空っぽな私は、今と違い征服欲だけは持ち合わせていた。世界を制圧して行く事が愉快で、そんな私についた呼び名は闇の女帝。
死ぬ間際まで、私はどでかい戦争を起こしてやる気だった。私対何百何千万人の、戦争という名のただの虐殺。
私の部屋に来たサラは、そんな私に世界の命運を握る問いをした。
「今なら分かるよ。あの最後のお前の問いに、もし私が素直に答えられていたのなら未来は違っていたんだろう」
「…素直に?どういう事だ」
「サラは、私の言い方に勘違いした。それはお前の事を思うなら今も正さない方がいいのかもしれない。だがそれでは此処に来た意味が無いんだ」
私って奴は一度死んでも尚自分勝手で傲慢で、どうしようもない女だ。
今でも全部知っていて好きになったお前は頭がおかしいと言い切れるよ。
「なぁ、サラザール。もう一度あの時と同じ質問を今、私にしてくれないか?」
「……ああ、それがリーラの望みなら」
本当、馬鹿な男。
「お前は、私の事も嫌いか?」
「サラザール・スリザリン、くだらない問いだったな」
私はあの時と全く同じ答えで返し、それから微笑み付け足した。
「世界とお前ならお前を取るぐらいには、愛していた」
サラは目を見開き、それからがたりと派手な音を立て椅子から立ち上がった。
ゆっくりと私に近づいて来て私の前まで来ると、サラは私を強く抱き締めた。
「っわ、私は…私は世界を取ってしまった!すまない…すまな、」
「はは、よく言う。あそこで私が今みたいに言っていたら、親友達も世界も捨てて私を選んでくれる気だったくせに」
「しかし結果的に私は…っ!!」
「私は、あの時私が素直じゃなくてお前に殺された事も、今では良かったと思っている」
サラの言葉を遮るようにしてまで言った、我ながら達観した言葉に、サラは言葉を失ったように私を凝視した。何故と問うその眼に笑む。
「あの後きっとお前は誰かを愛して、子孫を残したんだろう。親友達と切磋琢磨して今でも残るこの城をさらに立派にしたんだろう。今の様子を見る限り、私を想って泣いてもくれただろう。そして、幸せにはなったんだよな?…それでいいよ」
それはきっと、あの頃の私が辿っただろう未来のどれより真に幸せな結末だったと今では思えるから。好きだったから嫉妬が無いと言えば嘘になるが、私のせいでお前まで最低に不幸せに死ななかったのなら、それは一つのハッピーエンドってやつだ。
「っお前が素直じゃない事ぐらい知っていたのに。いや、お前が私を好きじゃなかったとしても、本当は私は、お前を選びた、」
「サラ、終わった事だ」
「……ッ」
大丈夫、私はもう信じているよ。
お前の周りは皆、私を殺す事に賛同しただろう。それは今の私でも、過去の私でさえ容易に想像がつく。
それでもお前は、私にチャンスをくれたんだろう。代わりに、もし駄目だったら責任持って自ら殺すなんて言ったのかな。
振り返りたくなるのは私もだが、でもそれはもう過去のお話。
「お前はやっぱり、知らない方が幸せだったかもな。ごめんな」
「私が馬鹿だったんだ。知れて良かった。愛してくれていたとわかっただけでも、幸せだよ」
「……そうか」
その顔はやはり無理しているような笑顔だったが、私はサラがそう言うならとやんわりとその腕の中から脱け出しサラの顔を見た。
懐かしい、記憶より少し大人びたその顔に自分の顔を近づけ、一瞬だけ唇を合わせてすぐ離し、背を向ける。
「お前を愛していた私は確かに居た。私はそれを認めに来た。これからは前、と隣を見るよ」
「それは妬けるな」
「はは、お前もあまり振り返るなよ!合言葉は変えておけ!」
部屋を出てから、私は少し泣いた。
もう二度と戻らない。
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