私が人の姿を象り、久しぶりに人を殺しオリオンを助けリドルの仕事ぶりをただ見ていた夜から数日が経った。
私が談話室の暖炉の前で丸まってうとうととしていると、その姿には少し不釣り合いな程意外に大きい手が私の毛並みを優しく撫でた。
誰が撫でているかはわかっていたのでされるがまま、だが目を開け顔だけ振り返った。
「おはよう」
「にゃ」
オリオンは、やっぱりリーラは可愛いなと頬を弛ませた。まぁ、猫だからな。
「なぁリーラ聞いて。俺友達居ない」
コイツは猫相手に全く何を言って来るのか。呆れるというか、いっそ笑える。
まぁ、どの学年も必修科目がある率が多く談話室に人一人居ないこの時間に、わざわざ授業をサボってまで話しに来たのだろうから、本人にとっては大きな悩みの話なんだろうが。
それを話すのが猫というのが、やはり何とも言えない。
「広い意味で言うなら、友達はさ、居るんだよ。リーラだって見た事あるだろ?俺はブラックだし、人気者だし、モテモテだし、いつも人に囲まれてる」
「なーご」
まぁな。
「でも真剣に相談したいって思える友達はね…考えて考えて出て来た答えが現状ですよ。猫かよって、自分でも思うけどさぁ」
リドルには他より気を許しているようには思うが、まぁ上司部下の関係だしな。言えない事、言いたくない事もあるだろう。
「そんな訳で御猫様。どうか俺の悩みを聞いてはくださいませんか」
「みゃー」
話せる事を明かす気は無いからアドバイスも何もする気はないが、それでもいいなら勝手に話せばいい。
「……あのな、」
「に」
「………あー、やべ、何これ猫に言うのも、てか口に出すのが、ッ痛!」
身を屈めて私とわざわざ視線を合わせたと思えば、反笑いで忙しなく視線を彷徨わせる気持ち悪いオリオンに前足で顔をぺしりと叩いてやった。
オリオンは身体を起こし、意外に痛ぇとおでこを押さえている。話すならさっさと話せ。
「……だからその、す、好きな人がね、出来たんだよ。婚約者とは勿論別に」
……何と言うか、想像以上に興味の湧かない話題だ。
顔を赤く染めながら、それさえ口に出すのが恥ずかしかったと言わんばかりに自分の顔を両手で扇ぎ熱を冷まそうとするオリオンを、私は猫の細かな表情などわからないだろうと冷めた顔で見ていた。
「俺、女嫌いだろ?ぶっちゃけ触られるだけで頭の中一瞬で冷えて苛々するんだよ。最近じゃ男でも声高い奴は女連想して苦手ってぐらい」
そいつは中々に重度だな。
「でもさ、手差し出されて…その時俺、一切嫌悪抱かないで自然とその手握って、いっそ離された時それが名残惜しいとさえ思って、笑顔可愛いって思って、俺、女にそんな事思ったの生まれて初めてでさ。なんか、だからその…やっぱりこれが恋だよな…?」
恐る恐る、オリオンが私を見る。
…………否定したい。
その状況に体験した覚えがあり過ぎて、それは違う、と明らかにそうだろう感情を隠蔽したい。
「俺、その時までその人の事知らなかったんだけど、その人は俺の事知ってたみたい。また会えるかなぁ…会ったら、どうしようかな…名前と、後連絡先とかいきなり聞いたら気持ち悪いと思う?そりゃ、告白には早いと思うんだよ!でも三度も偶然会えるかはわかんねぇじゃん?!」
猫に聞くな。もう三度以上会っているだろうが。
「っうわー、もう、まさか俺が女にこんな事思う日が来ようとは…!あ、いやリーラの事は今でも好きだからな?でもやっぱ種族の差がさ。惜しいね」
煩い。同一人物だ。
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