薬草を摘んでいたら、後から善法寺先輩が来た。
「あれ、先にやっておいてくれたの?ありがとう、渡一」
「…どうも」
善法寺先輩はいつもと何も変わらずにこにこと笑っていた。そしてきっと相変わらず、善法寺先輩は僕に好意を持っていた。あの天女の次に。
「…渡一、機嫌悪い?」
「いえ別に」
物凄く悪いですよ。貴方があんな女好きになるから。尊敬してんのに。
顔には出さずにまた無言で薬草を抜く。夕日が眩しい。
「…あのさ、」
「渡一!夕食に行くぞっ!」
聞こえて来たのは嫌いなナルシストの声。でもやっぱり背に腹は変えられない。
僕は何か言いかけてナルシストに遮られた善法寺先輩に、いつものよい子な顔を向ける。
「友人が呼んでるので、失礼します。あ、薬草はご飯の前に保健室まで運んでおきますから」
「あ、うん。いいよ、渡一が此処までやってくれたんだし、薬草は僕が運んでおくよ」
「本当ですか?ありがとうございます、ではお言葉に甘えてお願いします」
一度ぺこりと頭を下げて、ナルシストの所まで駆け寄る。
「ごめん、待たせた。手洗いたいから井戸寄っていい?」
「ああ、行くぞ!」
勝手に僕の手を引いて歩き出したナルシストに、僕は見ていないのをいいことに呆れた顔でその背を見る。手汚いって言ってんのに。
「…そういうとこが嫌い」
「うん?何か言ったか?」
「別にー」
つまり、僕はあからさまに僕を好きなこのナルシストが嫌いなのです。