忍術学園に入った次の日、僕は周りの異状に気づいた。
僕は確かに男の中では可愛い顔立ちだし、整った顔はしている。別にそういう風に見られたことが今まで無かったわけではない。
ただ、全員が全員なんて変だろう。忍たまもくのたまも、若い先生も、皆が僕に恋をするなんておかしすぎる。客観的に見て異様な状況だ。
脳裏に浮かんだのは、誰かの言った魔法の言葉。
「好き」
次から次へと会う度に言われる、皆同じ顔。
怖くなって、滝の部屋に走った。不安と、恐怖と、滝ならきっと大丈夫っていう信頼。
容易く裏切られた、信頼。
僕を「好き」な魔法にかかった人達を見たくなくて、会いたくなくて、僕は人の居ないところを探して、帰り道もわからなかったけどそれでもいいやとその場に踞った。
泣いていたら、過呼吸になった。
滝は来なかった。
「どうしたの?!」
慌てたような優しい声が聞こえて、僕は元々僅かに痙攣していた身体をさらにびくりと震わせた。
ああ、もう見つかってしまった。
「…っは、気に、しないで、っはどっか行っ、くださ」
「行けるはずないだろ!保健室行くよっ!」
それが善法寺先輩だった。
善法寺先輩は、僕を保健室に無理矢理引っ張って行き新野先生に看せた。
その顔に皆のそれは無くて、僕はああこの人は魔法にかかっていない、と安心してまた泣いた。
僕は保健委員になった。善法寺先輩が大好きで、尊敬していた。
「善法寺先輩、大好きです!」
善法寺先輩は、魔法にかかってないから素直に好きだと言えた。
四年になった最初の頃、その日も僕は笑顔で、そう本当に笑っていた。
「…渡一、あのね、」
その言葉の後は思い出したくない。
簡潔に言えば、善法寺先輩も他と変わらなかった。でも僕の尊敬の気持ちはもう消せなかった。
「僕は、…それでも善法寺先輩を、先輩として大好きですよ」
だけど、次の日天女が来た。
善法寺先輩は天女に恋をした。
昨日まで僕を「好き」だったんじゃないの?
…あれ、魔法、とけたんだ。なんで?今まで何回も告白された。善法寺先輩以外、僕を二番にすることなんてなかった。
僕がした事は一つ。彼にだけ口に出して意味は違えど好きだと言った。
「ははっ!」
気づいた。つまり、僕は永遠に好きな人とは結ばれない運命。そういう魔法なわけだ。
天女様はいいよね、本当に好かれてる。魔法じゃない。善法寺先輩連れてって僕をこんなに絶望させながら、僕を好きだと世迷い言。
だから、これから僕は好きだと吐き続ける。疲れたから。皆僕から離れてしまえ。
好きの代わりに嫌いを吐くのはお仕舞いだ。