僕がふらふらと歩いていると、学園の池にたどり着いた。
そういえば、僕って死んだらどうなるんだろう。
「…っ」
泣かない。僕は悪くない。僕が生まれたことに罪なんてない。ないよね…?ない、でしょう?だって、僕は悪くない。
でも誰も悪くない。だから嫌い。
「きらい」
ただの自己防衛の手段を、今日も呟いた。
「…渡一?」
「……ん?ああ、土井せんせー」
笑顔で振り返った。僕の声は、僕の声じゃないみたいにふわふわと何処か現実味がなかった。
「お前…何してるんだ?」
「何って…あれ?」
気づけば、池に身体の半分以上が浸かっていた。
…わっ、何これ。怖い。無意識に死のうとしてた…というのは言い過ぎか。頭冷やしたかったんだろう。
じっと水面を見つめて、僕は動かなくなった。だってまだ出たくなかったから。
「渡一、おいで」
「…」
おいで?…あ、そう。
「土井先生さ、」
「ああ」
「僕のこと好き?」
笑顔で問い掛けたけど、先生は黙った。
「渡一、そんな所に居たら風邪を引く。出てきなさい」
それから、何事も無かったようにそんな先生の台詞。ああ気に食わない。
「先生が来てよ、来てくれたら…じゃあ接吻してあげる」
そう笑顔で言って両手を広げれば、先生は掻き消えた。次いで、すぐ目の前に現れる。
はは、バッカみたい。
「ほら、馬鹿なこと言ってないで。風呂まで背負って行ってやるから乗りなさい」
土井先生はそう言って、僕に背を向け水中で顔が出る程度に屈んだ。僕はじっとその後頭部を見る。
…はぁ?何この人、いい人ぶって…ああ、いい人だった。土井先生も、善法寺先輩も、滝も、天女だって皆。
「…土井先生、」
「なん――」
暗い声で名前を呼べば、案の定心配したように振り返った土井先生に、その両頬を濡れた手で掴み口づけた。
目を見開く土井先生に、くすっと笑ってゆっくり離れる。
「ん、じゃあ先生、おんぶよろしくね」
にっこり笑って背中に抱き着けば、土井先生はびくりと震え、次いで派手な水音を立てて池から飛び出た。
「わあ、さっすが先生。超忍者ー」
「渡一、お、お前――っ!」
あ、やばい。これは説教の予感。
僕は首に巻き付くようにしがみついていた手を右手だけ外し、すっと先生の目を隠した。
「…嫌だった?」
「ッそういう問題じゃ、」
「僕と接吻するの、イヤ?半助、せんせ」
色を含んだ声で耳元で囁く。
土井先生は、怒鳴るのも忘れたように顔を真っ赤にした。目隠ししていた手を外すと、視線をさ迷わせる。
「僕、先生の事好きだよ」
たった一つだけの真実を告げた。
大丈夫、先生は答えないでも僕は答え知ってるから。僕を好きじゃない人なんて居ないから。
…ああ、つまり嫌いです。