僕と綾部が二人で話すと、奇妙な会話になる。文法とか、流れとか色々。
「渡一、渡一」
「何だよ綾部」
「渡一、滝と付き合うの?」
「いや、その噂は嘘。付き合わない」
「でも渡一は、滝嫌いでしょう?」
「残念ながら。何で知ってんの」
「顔でわかる」
「それ綾部だけだよ」
「皆鈍ちん」
「お前が変なの」
僕は、心の中は酷いものだが滅多に人を貶す言葉は吐かない。嫌いと口に出すのは、基本的には女だけ。鉢屋や不破にも滅多に言わないし。
「天女様は何で嫌い?」
「僕と反対だから」
「渡一が好きだよ」
「そうだね」
僕が串に刺さった団子を一つ口に入れている間に、綾部は二本の団子を消化していた。どういうことだこの早食い。
「やっぱり渡一嫌い」
「何なのお前、急に」
「だって渡一、好きって言われるの嫌いでしょ?」
「嫌いじゃないよ」
「そっか、じゃあ好き」
「それもどうかと思うけど」
好きと言われるのは好きだよ。ただ、一番に事実だなぁと思うから若干好きな方、程度だけど。
「善法寺先輩は馬鹿」
「急に悪口やめなさい」
「だって、馬鹿なんだもん。せっかく渡一は好きだったのに」
「ね」
思わず同意した。
だって、今確かに僕は善法寺先輩の背中を見て、天女を睨みつけるから。
「綾部は頭良いよね」
「愛の力」
「綾部が僕を好きじゃなきゃ良かったのに」
「どうして?」
「きっと親友になれた」
「ふーん…」
「うん、嘘」
「そっか」
「そうさ」
前提から狂う、全てがあり得なさすぎる話を自ら否定した。
「渡一って嘘つき」
「ああ」
「でも、僕にだけは正直者だよね」
嬉しそうに言うと、綾部は去っていった。何故なら時間が今日の穴掘りの時間になったからだ。
その背が見えなくなってから、呟く。
「お前が勝手に悟るだけだろ」
たった一つ、綾部が気づいていないことがある。
お前だって、善法寺先輩達と一緒なのに。
つまり、僕は綾部のことも嫌いなのです。