7 跡部君に連れられて来た場所に、私は目を見開き口に手を当て息を呑んだ。 「…跡部君、」 「アーン?何だよ、水代」 隣で怪訝そうに私を見る跡部君の様子は至って普通だ。少なくとも普通に見える。 ということは、まさか跡部君此処にそんなに何度も来てる…?そんな馬鹿な。 「跡部君がファミレスを知っていたなんて」 「おい、殴るぞ」 そう言いつつも実際には絶対手を上げない辺り、跡部君は紳士だと思う。 まぁ、冗談は置いておいても跡部君がこんなファーストフード店に並ぶ庶民代表みたいなお店に連れてきてくれるとは思わなかった。むしろ中学生が入る店かよっていう場所だと想像していたのに。 「部活の奴等に連れられて何度か来たことあんだよ。此方の方がお前も緊張しないで話せんだろ」 「…跡部君って、」 「アーン?」 「ううん、何でもない」 流石、モテるわけだと思っただけですよ。顔だけじゃなくて、中身までイケメンだ。 私の周りの男はモテる人が多くて、自他共に認めるあらゆる点で普通な私は少し居心地が悪い。 「とっとと入るぞ」 「うん」 でも跡部君、他の女の子よりは私に対する扱い悪いよね。 考えは脳内だけで留め、店員さんにテーブル席に案内され座ってすぐ、跡部君は自然に私の前にメニュー表を置いた。 「好きなもん頼め」 「…わぁ」 「何だよ」 「いや、格好いいなぁと」 「これぐらい当然だろ」 怪訝そうに私を見る跡部君に、私も特に口答えはせず視線を下げてメニューを見た。 跡部君がお金持ちなのは知ってるけど、当たり前のように奢る体で話してることは凄いと思うよ。口には出さないけど。 「じゃあ…私、ストロベリーブラウニーパフェ。跡部君はどうするの?」 「コーヒー」 「あ、予想通り」 「そうかよ」 跡部君って、そんなに食べるイメージないし。テニスの部員にはどっさり奢りそうだけど、本人はセット一つで満足してコーヒー飲んでそう。 跡部君が呼び出しのボタンを押し、すぐに店員さんがテーブルまで来た。 「このストロベリーブラウニーパフェとコーヒー。砂糖一つで」 「あ、砂糖入れるんだ」 「…」 注文のため店員さんを見ていた視線を此方にやり、無表情で私を見た跡部君に、はっとする。 「え?あっ、違うよ!ただ単純にへぇっていう…!」 「砂糖要りません」 「いやいや跡部君、いいんだよ!砂糖入れても!」 「要らないので。もう行って大丈夫です」 「…」 口に手をあて、見るからに笑うのを堪えながら店員さんは下がっていった。 跡部君、何て強情なんだ。私別に馬鹿にしてたわけじゃないよ。ただ新たな発見をした気分だっただけだよ。 「跡部君、意外とそういうの気にするんだね…」 「煩ぇよ。…で、お前の話だ。何があった」 単刀直入に聞かれ、私は困った顔で意味もなくメニュー表をぺらぺらと捲った。 「うーん…いや、言葉にすると……うーん」 「アーン?俺様がお前のために時間割いてやってんだ。早く話せ」 「…跡部君、一人称が俺様はダサいと思う」 「…」 「ごめんなさい」 跡部君に無言で見られると、問答無用で謝らなければいけない気になる。いや、今のは私のために聞いてくれている跡部君を茶化した私が悪いんだけど。 「で」 「一字の威圧感が…。えっとね、本当大したことじゃないんだけど…」 「ああ」 どんなに胸の中がぐちゃぐちゃしても、言葉にすれば簡単で。 「…彼氏と別れました。それだけ」 「成る程な」 跡部君は、私が想像していたような拍子抜けやら馬鹿にしたような表情はしなかった。ただそれだけ言って、何かを考えるように視線を窓に向ける。 「お前の彼氏とか想像つかねぇな…」 「元ね」 「立海の奴か?」 「うん」 丁度私が答えた時、店員さんが私のストロベリーブラウニーパフェと跡部君のコーヒーを運んできた。 私は店員さんに一言お礼と跡部君にご馳走になります、と軽く頭を下げてからサンデースプーンで苺のソースとナッツがかかった生クリームとブラウニーを掬った。おいしい。 ブラックのコーヒーを一口飲んで一瞬顔をしかめた跡部君に、かわいいなんて言ったら怒られるだろうと視線を逸らし、ふと気づいたことに口を開いた。 「テニス部の部長だから、もしかしたら跡部君知ってるかも」 「は?部長って、まさか幸村か…?」 「あ、やっぱり知ってるんだ」 複雑な気持ちを軽い笑顔に変えて言った。 跡部君はそんな私の顔を見て視線を逸らし、コーヒーをテーブルに置いた。 |