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教室に戻ると今日は珍しくあずみんだけは居なかった。…珍しくって、まだ一緒に行動するようになって片手の数も日にち経ってないんだけど。

「おかえりサララ」
「えりえりー」
「ただいま。あずみんまだ戻ってないんだね?今日は生徒会じゃないんだっけ?」
「あー、ね。あずみんは何かあった時の為に借り返せよってお願い出来るように、色んな奴に借り作らせてる猫かぶりちゃんで忙しいからねー」
「よっしー、今さらっと怖い話したね」

借り返せよはお願いじゃなく恐喝だし、助けてるとかじゃなく借りを"作らせてる"って時点であずみんの怖さがにじみ出てるんだけど。

「えっ?あずみん今猫のかぶりもんしてんの?にゃんにゃん?」
「菅野ちゃんは一回辞書引こうか」

菅野ちゃんの発言でちょっと和んだ。三人は本当にバランス取れてるなとしみじみ実感する。

「よっしー達三人っていつからの友達なの?」
「二年から。だからまだつるみ出してから一年半も行ってないね」
「え、そうなんだ。そんな感じしないね」

意外と短いな、というのが率直な感想だ。一緒に居て当たり前みたいに見えるのに。

「今は役割分担きっちりさんだけど、中一ん時とかは違ったから、俺もあずみんもよっしーに会って人間関係調整してもらったみたいな感じ」
「…ああ、ちょっとわかる。菅野ちゃんって自分に素直だから好かれも嫌われもしそうだし。特に女の子関係。あずみんも一人でも上手くやれそうではあるけど、こう…邪魔になりそうな人は排除とか脅しとかそういう手段選びそう」
「サララのあずみんの評価クソ笑う」
「裏ボスっぽいあずみんが悪いと思う」

私の裏ボス発言でよっしーは一頻り笑った後、たぶん無意識だろうけど愛おしむように目を細めた。

「良くも悪くも、二人共能力はあっても傲慢だからね。クッションは必要よねってお話」
「理想の中間管理職って感じだね。三人の中で実はよっしーが一番偉い気がして来た」
「ん?あずみんが裏ボスで、よっしーが中間管理職で…あれ、俺は?」
「菅野ちゃんはあれだろ。最初の方から出て来る、敵の憎めない脳筋ドジっ子ポジ」
「やった!俺に役割が!!」

菅野ちゃんが万歳と手を上げて全身で喜びを表現する。喜んじゃうんだ。
話が上手く纏まった所で丁度予鈴が鳴った。

「…って、あずみん戻って来て無いけど」
「予鈴までに戻って来なかったから、これはサボりコースだな。何だ、今日は俺以外全員サボってるじゃないか。この不良さん達め」
「どうせ俺は不良ですぅ」

遅刻常習犯で悪い事をし慣れ口を尖らせる菅野ちゃんとは違って、私はちょっと気まずくなり笑って誤魔化しもうすぐ授業だしと自分の席に戻った。
佐野さんは近くの友達と話していて、今は私には話し掛けて来なかった。他から見たらどうかわからないけど、私から見ればやっぱりわかりやすい子だ。
それから少しして、先生も入って来てもうすぐ授業という所で佐野さんが振り向く。

「安住君、何で戻って来ないんだろう?体調不良かな…心配。紗良ちゃん知ってる?」
「うーん、たぶんそういうのでは無いと思うよ。そのうち戻って来るんじゃないかな」
「ふーん…」

私の曖昧な答えに納得していなそうに佐野さんが不満気な顔をする。知らないものは知らないから答えようが無いんだけどなぁ。

「紗良ちゃんってさ、切原君と付き合ってるんだよね?」
「うん」

仮恋人だけど。
佐野ちゃんはにこにこしてはいるけど、言葉に威圧感が出てるからせっかく表情は作れてるのに意味が無い。

「じゃあ、当然切原君が好きなんだよね?」

答え難い質問だなぁ。
人としては切原君の事好きだと思うけど、恋愛感情…うーん…やっぱり何だか違う気がする。だって恋愛感情って、もっと辛くて切なくて儚くて届かないものなはずだ。

「うん」

でも今においては肯定が正解だろうから私は頷いた。佐野さんが笑顔になった。

「私はね、安住君が好きなんだ。…ふふ、内緒ね?」
「うん」

知ってる。
暗に協力してね、友達なんだから当然だよねとでも言いたげな視線に、私は笑い返した。佐野さんはわかりやすくてかわいい。
私も早く自分に正直になりたいな。

                


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