42.5

「で、話って何?」

仁王、と幸村が俺を見た。その何にもわかっていなさそうに見せる顔に苛つく。俺の用が"誰の話"かなんてわかっちょるくせに。
授業が終わってすぐ、幸村のクラスに行き幸村を連れ出し半ば無理やり屋上に来た。昨日水代から聞いた事を、幸村に確かめないかんと思ったから。

「本当にお前は、水代さんが別れようと思った理由さえ知らないんか?だとしたら何で聞かない。じゃって、お前は、まだ…っ!」
「それ、俺が理由知らないって水代さんが教えたの?」

熱くなっちょる自覚のある俺と反して、至って冷静な幸村の態度に舌打ちした。

「ああ」
「仁王は、彼女が何をしたいか知ってる?」

堪えるのがやっとな苛立ちをなんとか収める。水代が何をしたいんかなんて、どうでもいいじゃろが。今はお前の話をしてるんに。

「まぁの。昨日柳にいっちょるんを聞いた」
「…ふーん、知ってるわりには普通に話すね」
「要領の得ん話じゃったからのう。今は頑張るとか、最終的には誰かに会いたいとか、頑張らなきゃ会ってくれんから頑張っちょるとか、そんなじゃ」

俺の言葉に幸村は黙り込んだ。その空気はどこか重い。
…?まさか、幸村には謎かけみたいなこの話の意味がわかるんか?…さっき幸村は、知っちょるわりには普通に話すって言ったよな?なら、もしかして元から幸村は答えを知って、

「ねぇ、その話僕も交ぜてくれない?」

心臓を跳ねらせ後ろを振り返った。いつの間にか音も無く開けられていた屋上のドアと、ラスボスさながら笑む、俺がこの世で最も尊敬する人の親友の一人にして我等が立海大附属中生徒会副会長。

「…安住さん、屋上に何の用じゃ?」
「いや幸村に用だったんだけどね。教室行ったら仁王が連れてったって聞いたから」

待て。俺は確かに幸村は連れ出したが、誰にも屋上に行くなんて言っちょらんぜよ。

「…あんたはエスパーか」
「あはは、面白い事言うね?残念ながらそれは僕の役割じゃないんだなぁ。僕、勘だけで二択問題やると二割三割しか当たらないんだよね」

別に完全に運しか絡まない以外は頭回して当てられるんだけどさ、期待値考えるとちょっと納得いかないよね。
拗ねたように愚痴る安住さんは結局答えを言っちょらん。

「そこまで警戒しなくても、ただの統計だよ。仁王は屋上出没率が高いから。しかも屋上は人が来なくて秘密の話には打って付け。そんな、種も仕掛けもある簡単な話さ」

本気で怪訝に思っちょる事を俺の表情から察したらしい安住さんが何でもない事のように話した。俺は背筋が寒くなる。
俺は、別に安住さんと仲良しなわけじゃなか。なのに何故知っちょる。あー…やっぱこの人は敵に回しとうないな。

「そんな事より仁王は菅野ちゃんいいの?今日15日だけど、約束はお忘れ?」

安住さんの言葉に、俺は一気に血の気が引くのを感じた。え、今日、15…?や、やば…ッ!!

「幸村すまん!話の続きはまた今度じゃ!」

まだ青い顔で俯きがちに何かを考え込んどる幸村に聞こえたかは知らんが、それを気にしちょる時間はないから俺は一目散に校内に戻るべくドアへ向けて本気で駆け出した。

「じゃ、幸村は僕とサララについて知ってる事を話そうよ。幸村と僕の目的ってたぶん大方重なってると思うんだよね。元々その為に僕は幸村を訪ねて来たんだ」

後ろで聞こえた会話は気になったが、俺の一番は曜一さんじゃから振り返ろうとも思わんかった。

                


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