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初めて私は屋上に来た。いや、正確には無理矢理連れて来られた、が正しいが。
屋上は男子テニス部レギュラー専用、というのが我が校のルールで暗黙の了解だった。
綺麗な青空と屋上から見渡す景色が思いの外絶景で、私はフェンスに駆け寄り風景を見下ろした。

「綺麗、ですね」
「同級生なんじゃし敬語は要らんぜよ」

後から隣に並んだ仁王君の言葉に頷き、一頻り感動の波が去るとまた急に不安が押し寄せた。
何で私は、仁王君と一緒に屋上になんているんだ?幸村君のことは聞かない、とは言ったけどそんなわけがないだろう。
仁王君への不信感が募った。

「とりあえず、幸村の元カノサンって呼び続けるんもアレじゃし、名前教えてくれんか?ちなみに俺は仁王雅治」
「知ってる。私は水代紗良」

流石に同級生の有名人は…まぁ、大体は知っている。見た目がわかりやすい人ばっかりだけど。テニス部なら…ジャッカル君と、後丸井君も知っている。柳君と真田君は幸村君と一緒にいる時ならわかるけど…普段はどうだろう。

「水代さん、テニス部に興味ないってホント?」
「えっ、と…まぁ。テニスのルールわかんないし、そもそも運動まるで出来ないし」
「ブッ」

意外な質問に正直に答えれば、仁王君が吹き出した。ぷるぷると震えながら笑う仁王君に驚き、一瞬固まったが笑われている事に段々と不機嫌になる。

「何さ、自分が運動できるからって」
「いや、違くて。演技じゃないみたいやのう。確かに、今の質問は普通ならそう思うナリ」

意味がわからず顔を歪めると、すまんすまんと軽い謝罪が返ってきた。
謝ってきたわりに、仁王君は笑った本当の意味は教えてくれなかった。何なんだ。

「水代さんって美化委員じゃろ」
「…まぁ。よくわかったね」
「あー…幸村から話の流れで聞いたことがあるんじゃ」
「ふーん」

そりゃそうか。むしろそうじゃなく仁王君が私の委員会を把握してたら怖い。


「…花、好きなんか?」

その質問は、酷い。
わかっていない、いや仁王君にはわかるはずのない質問の意味に、私は血が出ない程度に軽く舌を噛んだ。

「綺麗だよね」

花は好きだ。そうじゃなきゃ美化委員なんて面倒な委員会やらなかった。幸村君とも、知り合わなかった。
美化委員と言ったら、花。それは仁王君達にとって当たり前で、幸村君の話からの刷り込みだろう。ゴミ拾いとか掃除の点検とか、他にも仕事あるんだけどなぁ。

「答えなくてもええんじゃけど…水代さんにとって、幸村のイメージってもしかして花、か…?」

心配そうに気を遣いながら聞いてくれた仁王君に、悪いとは感じながらも思わず笑ってしまった。
幸村君が、花…ねぇ…?まぁ、ある意味模範回答だ。彼は男の癖に誰より花が似合う。でも私は――

「幸村君のイメージは、テニスだよ。それ以外有り得ない」

笑いながら言った私に、仁王君は目を見張った。と思えば、次の瞬間にはすっと目を細める。

「俺等と同じじゃな」

アイツには、テニスが似合う。
そう言った仁王君は優しく誇らしげで、だけど何処か悲しそうな顔をしていた。

                


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