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授業が終わった後、佐野さんから話を聞くまでもなく彼はクラスにやって来た。

「あかりー!現国教科書忘れてさ、貸し…」

赤みが差したとかいう次元じゃない真っ赤な髪の毛と、よっしーみたいにどのクラスにも友達が居そうな見るからに明るい社交的な性格、何より我が校の半アイドルと化している部活のレギュラー。丸井ブン太。
そんなさすがの私も知っている彼は、うちのクラスに入って来るや否や佐野さんにお願いした、と思ったら佐野さんと話していた私を見てその動きを止めた。眉を顰める。え?私アナタに何かしましたっけ…?

「…ちょい待って。すげー見覚えある。思い出す…思い出すから待って」
「いや、私アナタと知り合いじゃありませんけど」
「え、マジで?でもすげー見覚えあるんだけど…あー…あれ、何処で…?」
「ブン太は見覚えあって当たり前だと思うよ。この子、水代紗良ちゃんだから」

うんうん唸る丸井君に、佐野さんが笑顔で私の名前を言う。確かに、丸井君は知ってておかしくないとは思うけど、そんなに私有名だろうか……いや、幸村君に続いて赤也君と付き合い出したら噂にもなるか。

「……あ!あー、成る程な!俺さ、お前と一回話してみたかったんだよ!」

思い当たった、という顔で納得したと思ったら、丸井君は私の隣まで来て、その場にしゃがみにこにこと笑顔を向けて来た。
成る程と思った理由を口にしない辺り、たぶんこの人は赤也君より大人な性格なんだろうな、と赤也君に少し失礼な事を考え、まぁそれなら別に話すぐらいはいいかと思った。
幸村君の事を聞かれないのであれば、それで。

「今、赤也と付き合ってんだよな?何で赤也って水代さんに惚れたん?」
「…それは、本人に聞けばいいんじゃないですか?丸井君は赤也君と仲良いでしょう?」

思わず呆れる。だいたい、赤也君が私と付き合っている理由は幸村君の元カノな私の彼氏という立場が面白いからだ。流石に私の口から赤也君の評価を落としそうなこの理由を言うのは憚れる。
丸井君は拗ねたような顔をし、しゃがむのをやめその場に胡座をかいた。

「だってアイツ、ブン太さんにはわかりませんよって。うぜー」
「うーん…じゃあ、私もわかりませんとだけ答えておきます」

あくまで赤也君の口から聞いて欲しい。わかりませんよ、という言い方が確かに少し気になりはするけど…。
結局答えを教えてもらえなかった丸井君は、すっと突然真面目な顔をした。

「…アイツさ、幸村君にも懐いてんだよ。で、今回の件まで水代さんと話した事なかったはずだし…だから、水代さんと恋人になりたいなんておかしいんだよ。水代さんがどう思うかはわかんねぇけどさ、幸村君とアンタの姿は、俺達皆の理想だったんだ」

完成されたものに、人は手を出さない。不完全だから触りたくなる。ずっと見ていたいとずっと触っていたいは、似ているようで全く違う感情だ。
だから、幸村君と私?わたし?は?完成されて…?

「ありがとうございます」

完成されて、いた。
起きている間だから、その日のうちに同じ失敗を繰り返す事もなく笑顔を作れた。

それは私にとって決して褒め言葉ではなく、ただわたしを、抉る言葉だったのだけど。

                


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