30 「笑ってください!」 ……は? 赤也君の突拍子もない、予測不可能な言葉に私はぽかんと赤也君を見返す。赤也君の表情は至って真剣だ。ええー…? 軽いデジャヴを感じる。そうだ、やっぱり付き合いましょうって二度目の告白?と言うか仮恋人の取引の時と同じ。 「…えっと、私赤也君と居る時笑ってなかったかな?」 そんなつもりはない…と言うか、さっきからちゃんと笑ってたと思うんだけど…。 私が困った顔で赤也君に聞くと、赤也君はぶんぶんと首を振った。 「俺に!」 「…?」 俺に?え? 「だぁから!よっしー先輩の事考えてとか、俯きながらとかじゃなく、俺を見て笑ってください!」 「え、えー?」 やっぱり赤也君は真剣な顔で私を見ている。ちょっと意味がわからない。それを私がして、どうするのか。 てか、期待されてるところ悪いけど、この空気で赤也君に注目されながら赤也君に笑いかけろって…無理無理。難易度高過ぎ。絶対引き攣る。 「あのね、赤也君…笑えと言われて笑うのは、ちょっと難しいかな」 「えー!」 いや、えーじゃなくて。そりゃ言いたい事言えって言ったのは私だけど、物理的にちょっと。 「じゃあ、これから笑う時は俺の方見て笑うように意識してください!」 「う、うーん…善処します」 そんなに下向いて笑ってたかな…笑ってたんだろうな。難しいなぁ。 「あーすっきりした!」 どうやら私の笑い方に関してずっともやもやしていたらしく、赤也君は一人爽快な顔をしていた。…う、うん、赤也君が良かったなら良かったよ。 「あ、もうすぐ昼休み終わりますね!」 「そっか、じゃあそろそろ行こうか」 食べ終えたお弁当を包み直しながら、ふと赤也君はこんなので満足なんだろうかと不思議に思った。 赤也君は私の彼氏っていう面白い立ち位置が欲しかったとして…私は何もしなくてもいいの?私の知らない所で赤也君楽しい事になってる? 「ねぇ赤也君、楽しい?」 「へ?まぁ、それなりに」 …いっか、本人がそれなりに楽しんでるらしいし。 「じゃあまたね」 「?はい、また明日!」 赤也君と居るのは、私も嫌いじゃない。突拍子もなくて楽しい。 少し、頭が痛いけど。 |