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結局、この日初めて私は学校をサボった。

本当はそんなことする気はなかった。だってあの少年の言ったように…いやほとんどが知らなかったにしても朝の一件でたくさんの人達に、私と幸村君が別れた事は伝わっているはずだ。
今日私が学校に行かなかったら、その噂がまた広がる。幸村君にも迷惑がかかる。

それでも私は、あの気持ちのまま教室になんて行けなかった。

「最悪」

少年の好奇心もからかいも、かわせないぐらいにまだ引きずっている自分が嫌だった。だけど無理だ。
釣り合ってなかったのなんてわかってる。自分が特別可愛くないのなんてわかってる。別れてよかったなんて、別に言われても平気だった。
でも、彼に言われた告白のようなあの言葉に、私の気持ちを馬鹿にされたような気になってどうしようもなかった。頭の中がぐちゃぐちゃだった。

宛もなく走ってただ何となく入った学校の近くにあるスーパーのトイレは、広い長イスがあって綺麗で、偶然だけどサボり場には最適だった。制服のままだし、掃除のおばちゃんが来る度に何処か気まずかったけど。

「はぁ…」

ため息を吐いて気持ちを落ち着ける。
遅刻してまた行くよりは明日普通の時間に登校した方がまだ目立たないだろう。五十歩百歩な気もするけど。
携帯で時間を確認すると、まだ九時三十分だった。

「名前……なんとか…赤、なんとか」

暇を潰すためにも、此処に来た原因の少年の名前を思い出そうとして、そんなことさえ思い出せなかった。立海生は大体知っているだろうに。
それだけ私は今まで幸村君しか見ていなかったのか。あああ、まただ。また思考が幸村君に行く。

「好きになんて、ならなきゃよかった…っ」

好きになって良かったなんて嘘だ。あんなのフィクションだから成り立つ。だってこんなに苦しい。辛い。恋愛なんて、したくなかった。
そう思うのは、私がまだ子供だから?過去に出来る気がしないこの想いが、いつか笑い飛ばせるなんて信じられない。
まだ幸村君からのメールも消せない、そんな私を笑われることすら今の私は絶対に許せないのに。

「ごめんね」


幸村君の申し訳なさそうな笑顔が、脳裏をよぎった。幸村君は全部わかっていたのか、それとも違うのか、とにかく…私が決断したんだから、幸村君は何も悪くないのになぁ。
明日こそはちゃんと学校に行こう、と勢い込んでトイレの長椅子から立ち上がった。時間は九時四十一分。

学校に行かなかったことを責められることはない。ないけど…帰る家に誰もいないことが、今日程寂しいと感じたこともない。

                


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