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「ねぇ水代先輩、幸村部長と別れたってマジッスか?」

学校に来て靴を履き替えるなり、大して話したこともなかった…いやむしろ今日初めて話しただろう、確か幸村君のテニス部の後輩で人気者の少年が目の前に立ちはだかり聞いてきた。私は固まる。
普通、幸村君じゃなくて私の方に聞くか?と言うか、初対面でこれって流石に失礼過ぎるでしょ。
頭に血が上るような感覚に、沈黙に堪えきれず少年が諦めてくれないだろうかと少年の方を盗み見た。少年は好奇心に満ちた笑顔で私をじっと見つめていて、私の方が慌てて視線を逸らす。

最悪だ。これはきっと言うまで逃がしてくれない。私みたいな普通な女がテニス部の人気者に、アナタには関係ないでしょ、なんて言えるわけがない。八方塞がりだ。最悪。最悪最悪最悪。

「そうだね」
「何で別れたんスか?」

心臓を握られているようなキリキリとした痛みを感じ、涙が出そうになるのも少年を睨もうとするのも堪え、意味もなく鞄を持ち直した。
普通、こんなの話したこともない相手に正面切って聞くか?相手の気持ちを考えて自粛するものでしょ?

「…色々あったの。もういいでしょ?私行くから」

鈍感でも天然でもないため、そろそろ無神経な質問だけじゃなく周りの視線も気になりだして、私は早口で言って返事を聞く前にさっさと歩き出した。手の平にわざと爪を食い込ませるように、強く握り締める。
泣かない。もう泣いて堪るか。しかも人前でなんて冗談じゃない。幸村君ならまだしも、他人の言葉なんかに泣かされて堪るか。
被害者の顔なんて私にする資格は無い。

「待って!」

辺りに響いた大声に、離れかけた周囲の視線がまた集まる。足を止めざるを得なかった。
渋々振り返ると、少年は私の前まで走ってきてこう言った。

「先輩、俺と付き合いませんか?!絶対幸せにしますから!」

大勢の注目を浴びる中、少年はまた大声でそう言った。目の前の少年より、私は過去の自分と幸村君を思い出し、咄嗟に体が動いた。

「っバ、カに、すんな!!」

頭の中が真っ白になって、ただ怒りの感情が込み上げて来て、私は感情を込めた声で怒鳴りながら少年の頬を張り飛ばした。グーでやらなかったのは、理性がまだほんの僅かに残っていたのかもしれない。
音からしてその場に倒れたと思われる少年の姿も確認せず、私は即座に靴をまた履き替えて校舎の外に飛び出した。

またきっと、噂が広まる。
幸村君の彼女は暴力的な最低女。

ざわめく周りの声を聞かないように、強く目を閉じて走った。

                


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