27 あずみんがコインを投げる。表。 「よし、じゃあ今日は僕とサララが賭けね。よっしーはおやすみ」 「ちくしょー」 三人で菅野ちゃんの遅刻賭けをするにはどうしようかという話で、あずみんが考えて来たやり方がこれだった。 コインを投げて、表か裏。どちらでも揃った二人が賭けをする。あんまり複雑なやり方にしてもね、ほら面倒臭いし飽きちゃうでしょ?とあずみんは笑った。 「私、今日は早く来ると思う」 「それは僕も」 「よし、じゃあ表ならサララが遅刻しないに賭けられて、裏ならあずみんが賭けられるとしよう」 よっしーがコインを投げた。 「お、あずみんの勝利」 と言ったと同時に教室のドアが開き教室内に動揺が走った。 「菅野ちゃんが5分前登校…だと…?」 「ふふん、菅野もたまにはやれるのだ」 菅野ちゃんが偉そうにふんぞり返る。でもそれは当たり前の事な気がするのだけど。 「はい三百円」 「はいまいど」 小銭入れから三百円取り出してあずみんに渡す。どきどき感のかけらも無い勝負だった。 「あ、そういえば思ってたんだけど、菅野ちゃんってサッカー部エースって言われてるけどもう引退してるよね…?」 「ああ、それね。俺はねぇ、うん、もういいと思うのだけど後輩がわらわら縋って来るから、仕方なくまだ放課後だけたまに参加してんの。そして何故か未だ俺が部活一目立ってる。俺エース扱い。ウケる」 「菅野ちゃん本当運動神経馬鹿みたいに凄いもんね」 「そうそう!あずみん、ありがとー」 …今のはちゃんと褒められてるのか微妙な気がするけど。まぁ本人がいいならいいか。 「だからサララよ。今日の体育では俺の雄姿をしかと見るがいい。あれ、女子はバドだよね?」 「うん、楽しみにしてる」 そうか、菅野ちゃんはそんなに上手いのか。 「サララって何となくテニス上手そうだよね」 「あーそれ解る」 「うーん、どうだろう」 今まで見て来た誰よりも、ひょっとしたらプロよりテニスが上手い日達君に、上手だと言われた。才能あると笑って頭を撫でる人が居た。 でも私は、日達君はもちろん、幸村君にも、赤也君にだって勝てないだろう。 向上心が無いんだから、当たり前だ。 私は、次こそ勝つという気持ちをあの日の午前1時に置き去りにしたから。 今の私は、負けたいんだよ。何度だって。何度でも。 いつか叶うと信じてる。それまで永遠に子供で居るから、ね。 |