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あずみんがコインを投げる。表。

「よし、じゃあ今日は僕とサララが賭けね。よっしーはおやすみ」
「ちくしょー」

三人で菅野ちゃんの遅刻賭けをするにはどうしようかという話で、あずみんが考えて来たやり方がこれだった。
コインを投げて、表か裏。どちらでも揃った二人が賭けをする。あんまり複雑なやり方にしてもね、ほら面倒臭いし飽きちゃうでしょ?とあずみんは笑った。

「私、今日は早く来ると思う」
「それは僕も」
「よし、じゃあ表ならサララが遅刻しないに賭けられて、裏ならあずみんが賭けられるとしよう」

よっしーがコインを投げた。

「お、あずみんの勝利」

と言ったと同時に教室のドアが開き教室内に動揺が走った。

「菅野ちゃんが5分前登校…だと…?」
「ふふん、菅野もたまにはやれるのだ」

菅野ちゃんが偉そうにふんぞり返る。でもそれは当たり前の事な気がするのだけど。

「はい三百円」
「はいまいど」

小銭入れから三百円取り出してあずみんに渡す。どきどき感のかけらも無い勝負だった。

「あ、そういえば思ってたんだけど、菅野ちゃんってサッカー部エースって言われてるけどもう引退してるよね…?」
「ああ、それね。俺はねぇ、うん、もういいと思うのだけど後輩がわらわら縋って来るから、仕方なくまだ放課後だけたまに参加してんの。そして何故か未だ俺が部活一目立ってる。俺エース扱い。ウケる」
「菅野ちゃん本当運動神経馬鹿みたいに凄いもんね」
「そうそう!あずみん、ありがとー」

…今のはちゃんと褒められてるのか微妙な気がするけど。まぁ本人がいいならいいか。

「だからサララよ。今日の体育では俺の雄姿をしかと見るがいい。あれ、女子はバドだよね?」
「うん、楽しみにしてる」

そうか、菅野ちゃんはそんなに上手いのか。

「サララって何となくテニス上手そうだよね」
「あーそれ解る」
「うーん、どうだろう」

今まで見て来た誰よりも、ひょっとしたらプロよりテニスが上手い日達君に、上手だと言われた。才能あると笑って頭を撫でる人が居た。
でも私は、日達君はもちろん、幸村君にも、赤也君にだって勝てないだろう。
向上心が無いんだから、当たり前だ。

私は、次こそ勝つという気持ちをあの日の午前1時に置き去りにしたから。
今の私は、負けたいんだよ。何度だって。何度でも。

いつか叶うと信じてる。それまで永遠に子供で居るから、ね。

                


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