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「びっくりしたー…!なぁ、水代さん本当にブランク持ち?女子テニス部とか入った方がいいって!俺相手にここまでとか、全国行けるよ!!」
「はは…」

一試合終えて立ち上がるのも億劫でテニスコート内でへたり込んでる私に対し、軽い運動でいい汗かいたとばかりに元気いっぱいな日達君に言われると嫌味に聞こえる。
にしても、この人本当に強過ぎない…?いっそ幸村君より…いや、もしかしたらプロよりも…これは、本当に凄い事情があって人前でテニスが出来ないんだろうな。
日達君が歩いて私に近寄って来て、座り込んでいる私に手を差し出した。私はその手を取って立ち上がる。あー、ふらふらする…。

「水代さん、テニス辞めてたの?」
「うん、もうやる意味が無くなっちゃったから」

半ば日達君に支えられながら何とかベンチにまで辿り着いた私は、倒れ込むようにベンチに座る。
こんなに本気でやるならちゃんと準備運動してたのに、日達君め。

「やる意味?」
「そう、私テニスが大嫌いなの」

笑顔で言った私に、日達君が眉を寄せうーんと唸った。

「嫌いなのに、そんなに上手くなったの…?でも水代さんのプレイスタイルって、」
「そう。私天才じゃないの。だからすっごく頑張ってね…努力の技術と頭脳プレイ」

笑いながら話す私の話は我ながら矛盾だらけだ。

「耳に痛いお話だ」
「日達君は、半々かな?」
「努力はそれなりにしたけどねぇ…俺の場合天才どうこうじゃなくあり得るはずのないイカサマだから、イカサマ抜きの才能溢れる若人とは罪悪感で戦えないんだよね」

イカサマがどんなものかを触れようとは思わない。私と彼はそれがいい。

「でもね、テニスは好きだよ。水代さんは、まだ嫌い?」
「どうだろう…今、テニス部の人とばかり関わってるから、嫌いというより苦手かな」
「というより怖いじゃない?」

まさか、日達君のようなタイプの人に言い当てられると思っていなかったから目を見開き日達君の方を見た。
日達君は、やっぱり赤也君のように裏表なさそうな顔で笑っていたけど、でも彼にも何かある事はわかった。

「俺も同じだったから。で、まだ少し怖い」
「そうなんだ…」
「そうなんです。でも、何にも知らないで俺の事を大好きだぁあああとか、叫ばれたら俺ももう笑うしか無かったというか」

くすくすと思い出し笑いをする日達君は、含むものはあったけどそれを合わせたとしてもとても幸せそうだった。

「水代さんは?そういう人いない?」
「どうだろう」

浮かぶ人は何人か居た。でも私の場合は、

「追い詰められたらきっと死んでしまうよ」


日達君が息を飲んだ音にはっとして、慌てて笑顔で取り繕って逃げ帰った。

あぶない、あぶなかった。
日達君はきっと無意識に人に本音を吐かせるのが上手い。もう少し一緒に居たら、今度こそ立てなくなるところだった。

                


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