22.5 「別れちゃった」 そう、隠し切れていない寂しさを滲ませながら言った精市に、俺の思考は一瞬停止した。 水代に仲の良い友人でも居れば迷わず水代について聞きに行くのだが、精市と水代が友人になる以前から彼女は境界線を張って人と付き合っている。俺もテニス部を除いては、仲が良い奴もいるが自分のテリトリーには入れさせない付き合いをしているゆえに解る。 …まぁ、水代に関して俺の解っているデータなど大して無いのだが。 精市が珍しくある女子と友人になりたいと話してきた時、俺はその女子――水代について調べた。精市や弦一郎と共になら話した事もある。 解った事は、彼女が恐ろしく頭の良い事、人を煙に巻くのが上手く彼女を覆う壁が厚い事、…精市を好きな事。 「柳、考え事してる暇あったらもっと仕事出来るよね?はい、この書類お願いしまーす」 生徒会の仕事中に精市と水代について考えていたせいで、副会長の安住に笑顔で書類の束を机に置かれた。…まぁ、この生徒会で会長以上に的確に大量の仕事をこなす安住に言われると断れないのだが。 安住を見て、また水代を思い出した。異常な頭の良さなら似ているな…そういえば、二人は同じクラスか。水代の性格からして仲良くしてはいないだろうが。 「なぁに、人の事ジロジロ見て。僕そっちの趣味無いからね?」 「俺にも無い」 「そ?ならいいけど僕、たまーにそっちの告白されて超鬱陶しいんだよね、うざー」 見た目は確かにかわいいかもしれないが、この笑顔で毒を吐く一見小動物は俺の中で最も敵に回したくない人間だ。安住を飼い馴らすなんて…無理だろう。 「まぁ、女に告白されても付き合わないけど」 「安住は二年から急に女と付き合わなくなったな。何故だ?」 「またデータ?好きだねー」 呆れたように言いながら高速でパソコンのキーボードを打つ安住は、俺を横目で見て恐らく俺が仕事をしながら質問していると確認すると。口元だけで笑った。 「女と遊ぶより、楽しい友人を二人見つけたんだよ。ああ、最近もう一人増えたけど」 「成る程、吉村と菅野か…。もう一人とは?」 「さぁねー?んー…そろそろバラされちゃったころかな?」 俺の質問を軽く流した安住は、妙に楽しげにくすくすと笑いながら独り言を言った。 「まぁ、サララ相手になら別にいいんだけど。多少は僕の有能さ見せとかないとねー。頼られたいし」 頼られたい…?それに、サララと言うあだ名はどちらかと言えば男と言うより、 「…まさか新しい友人は女か?」 「まぁね」 水代の事も気になるが…個人的に此方も興味をそそられるな。この安住に女の友人が出来るとは。 一先ず俺は、まだ後一時間は終わりそうに無い書類の束を見てそちらに集中し始めた。 |