23 この一週間は色々あったけど、部活に入ってない私は土日はゆっくり休める。 と言うか、もう私達の代の運動系の部活の人達は引退しているだろうに私の知るテニス部の人は皆毎日部活に行っている。テニス馬鹿だよね……駄目だ、一人で居てもろくなこと考えない。外に出よう。 私は、誰も居ない家で女子力の欠片もないジャージに着替えると、小さめのバッグ一つ肩にかけ玄関に向かった。 振り返る。 「行ってきます」 笑顔で言って、家を出た。 で、宛もなく歩いていたはずなのに着いた場所がストリートテニスのコートとは。笑えない。全然、笑えない。 「お姉さん、テニス――するって感じの顔じゃねぇですね。ごめんなさーい」 人懐っこそうな同じぐらいの年頃の男の子に話し掛けられたと思えば、謝られた。…そんなに険しい顔してたかな。 「テニスしてるんですか?…でも、他に誰も居ない気が…」 「あはは、そうなんですよー。穴場のストテニコート見つけたはいいけど対戦相手居なくて。あ、俺ちょっと事情あってあんまり目立つ場所でテニス出来ない上に友達とも出来ないんですよねー。いやー参った」 男の子は赤いグリップのラケット片手、に困ったような顔で人は居ないけどちゃんと整備は行き届いているらしいテニスコートを見た。 どんな事情だとそんな事になるんだろうか。いや、私が言えた義理ではないか。 「あのラケット、」 「ん?ああ、俺のですよ。ちょっと事情あって二つ持ってんですよー」 「事情凄そうですね」 「あはは、まぁつまり今持ってんのは手加減用です。俺ちょっと結構腕に自信あって」 そこまで自信があるのか。 私は驚いて、そして自然ともう一つの黒いグリップのラケットの置いてあるコート脇のベンチまで歩いて行った。 「此処なら、誰にも見られませんよね」 「ん?じゃないですか?その為に俺も此処来てますし」 「じゃあ、女のブランク持ちで良ければお相手しますよ」 強気に笑ってみせれば、男の子は目をぱちぱちと二度瞬きし、それから満面の笑みを浮かべた。 「マジで?!え、テニスやってたんすか?!」 「はい、三年も前までなのでもうボロボロだと思いますけど」 「いえいえ、いっそラリーで充分ですよ!!」 男の子は本当に嬉しそうだ。友達多そうだな。赤也君みたいなタイプだ。 「あ、お姉さん名前は?歳は?あ、ナンパじゃないです、カレ……こ、恋人は居るんで!」 「水代紗良、15歳です」 カレの先の言葉はわからなかったけど、ナンパだなんてこっちはちっとも思っていないのに否定する男の子に軽く自分の名前と歳を教えた。 「…へ?」 「どうかしました?」 「あ…いえ、なんでもないです!あの、あれだ!同い年だと思わなかったんで!俺は日達朔人って言います!」 明らかに誤魔化しているのを感じたけど、行きずりのテニス相手にそこまで突っ込む事無いか、と軽く笑って流した。 「じゃあ敬語はお互い無しでいいね」 「な!よし、そっちのラケット使って!一試合お願いしまーす!」 ラリーじゃなかったのか、とはわくわく感に溢れた表情の日達君に言えるわけもなく、ラケットを握り締めた。 これを最後に握ったのは…2年と半年以来にもなるか。自然と滲む手汗が申し訳ない。 でも忘れない道を選んだなら、またテニスをするのはいい機会だと思ったんだよ。 |